土岐の殿さまの雪山行軍
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
〇〇〇〇のお殿さま
ざっく、ざっく、ざっく、ざっく
満月の光に照らされた雪の稲葉山を歩く怪しい四人組。熊や鹿の毛皮でできた服や手袋、毛皮のブーツを着用している。首にはマフラーを巻いている。
21世紀の知識を持ったまま戦国時代の美濃に生きている土岐サブロウ
「サブロウ先生、雲ひとつない満月の雪山は明るくて神秘的ですね。ロマンチックです」
「深夜の散歩もなかなか乙なものであるな」
「ですよね〜」
サブロウとヨシノは甘い雰囲気である。
「ナニ言うとんねん!センセ、ヨシノさん。これ、散歩ちゃう。夜間雪山行軍訓練は普通のヒトは散歩言わへん!」
「ホントよ師匠。これじゃあ凍死しちゃうよ。八甲田山みたいになるよ!寒いよ〜使い捨てカイロが欲しいよ〜」
「大げさであるなあ。皆美濃和紙でできた防寒用のインナー着せているだろう。チカはさっきまで焼酎飲んであったまってたはずだぞ」
「あたし寒いの苦手なのよ〜」
「まあ、この時代はシュペーラー極小期だから、日本は二十一世紀より五度や十度気温が低くてもおかしくはないけどな」
「ほら、やっぱり〜!」
「気合いだ、気合い。もっと熱くなれよ〜ファイア〜!」
「気合いだけやったら、そんなあったこうならへんわ。おまけにこんな訳のわからん荷物載せたソリまで引いとるんやで、まるで笠地蔵や」
「うまいことをいうわね」
「大丈夫、こうやってみんなでソリを引っ張って身体を動かせばそのうち温かくなる」
「サブロウ先生、この荷物ってなんですか?」
「これは最高軍事機密が入っているのだ。目的地の砦に着くまでは絶対に秘密だ」
「もったいぶるわねえ。ヨシノさんは寒くないの?」
みゃーん
「へへへ、ふところにネコのアイちゃんを入れてきました」
「ずるいずるい!」
「せやせや、軍事行動中にネコはあかんやろ!」
「そうだな、目的の砦に段蔵夫妻が待ってるから、そこでアイちゃんは一旦お預けだ」
「だって〜」
くぅ〜ん
「カズマ、あんたも懐に子犬入れてきたんじゃない!」
「カズマさん、自分のこと棚に上げて!」
「いや、このコバヤシ丸は軍用犬だから」
「カズマ、見苦しいぞ。砦に着いたら没収だ、没収!」
「くっそう、コバヤシ丸が鳴かへんかったらなあ」
くっくるー、くっくるー
「チカさん?」
「チカ、お前はハトかあ!」
「いや、この子たちは軍用の伝書鳩だから」
「うそこけ!伝書鳩なんてほんなもんウチにはおらへんど」
「ちょっと待て、この子たちって全部で何羽連れてきたんだ?」
「えーっと七羽かな?」
「それって今度の宴会の余興のためにヨシノの兄貴たちが飼っている手品用のハトじゃないか!」
「チカさんひどい!」
「あら、ちゃんと『借りるわよ』って声をかけてきたわよ」
「チカに頼まれたら断れないわなあ。怖いから」
「まあ、失礼な。ヒトをまるで▷゛ャ◁▽▷みたいに」
「伏せ字多過ぎや!それにしても、ヒトには文句を言う割には、自分はぎょーさん詰め込んだもんやな」
「ハトってあったかいけど小さいから一羽じゃ温まらないのよ」
「チカも砦に着いたら没収だ」
「はーい」
じーーーっ
「三人ともなぜ俺の方を見つめているんだ?」
「サブロウ師匠がなにも懐に入れてないはずはないわよね」
「せやせや、絶対になんか入れとるに決まっとる」
「サブロウ先生は懐になにを入れてるんですか?」
「俺は軍事用食糧を入れてきただけだよ。なにも鳴き声なんてしてないじゃないか」
ぽりぽりぽりぽりぽりぽり
「師匠、その音は何かしら?」
「よっしゃあ、身柄確保ー!ヨシノさん、センセの懐の中、調べたれ!」
「了解です!」
「あ、お前ら何をするー!」
ぴょこぴょこ、もひもひ
「「「ウサギかあー!」」」
サブロウの懐の中から菜っ葉を食べながら大きくて真っ白なウサギが一羽、耳をぴょこぴょこ動かしながら出てきた。
「ああ、おれのうさこちゃんが!」
「かわいい!」
「そりゃあ、ウサギは鳴かへんわなあ」
「・・・・・・師匠、食糧って言ってたわよね」
「ウサギ美味し〜、かの山〜」
「美味しいちゃう!追いしや!センセ、この子ホンマに食うんか?こんなにかわいいのに」
「ホントだよ、言ったろう。これは軍事用の食糧だって。冬場の行軍で暖をとりつつ、食料にもなる。ついでに毛皮もとれる。一石三鳥だ」
「なんだかかわいそう」
「でも、チカさん。ウサギって美味しいんですよ」
「ホント?」
「ホント、ホント!」
「この女子たちはもう、信じられへんわ」
「カズマ、元々ヨシノはブラジル育ちだし、チカもメキシコで暮らしてたから二人とも立派な肉食民族だ。忘れたのか」
「そうですよ、カズマさん。かわいいと美味しいは両立するんですよ」
「そういうことだ」
「カズマ、考えたらウシもブタもニワトリもウサギも同じ生命よ。ありがたく生命を頂きましょうよ。そして、その白い毛皮を帽子に!」
「ああ、わたしがいま言おうと思っていたのに!昔話にもあるじゃないですか、イナバのシロウサギって」
「それを言うならイナバの漢字は稲葉じゃなくて因幡でしょ!」
「わかったわかった。二人分作らせるから、一羽じゃ足りないんで何羽かシメてからだなあ」
「「はあーい」」
「センセ、ボクこの女子たち怖いっす」
「へっ。なにを今さら。そら着いたぞ」
「お疲れでごぜえやす」
「皆さんお疲れさまです」
「「「あったかーい」」」
「おう、段蔵、お鷹さん。火の番、ありがとうな。そんでこの動物軍団、しばらく預かってくれ」
「へえ。かしこまりやした」
「ずいぶんいっぱい連れてきましたねえ。皆さん本当に寒がりですねえ」
「「「「いやあ、面目ない」」」」
「さて、荷解きだ」
「なにかな、なにかな?」
皆でソリで砦まで引っ張ってきた荷物を開けてみると、中から出てきたのは・・・・・・
「「「スキーだ!」」」
スキー板にストックが四人分出てきた。
「サブロウ先生、すごい、すごい」
「大桑の職人衆に作らせた試作品だ。板は漆塗り。ストックは玉鋼だ」
「センセ、これはまた盛大な無駄遣いを」
「無駄じゃないぞ。スキーは積雪時の速やかな行動を可能にする軍事上重要なものだ」
「うーん、せめて昼間だったらこんなに寒くないのに」
「これは軍事機密だから仕方ない」
「サブロウ先生、本音は?」
「せっかくだから、日本で最初のスキー、俺たちだけでこっそり遊びたいじゃないか。もちろん、実験も兼ねてだけど」
「「「ああ、やっぱり」」」
「そのために稲葉山のこの辺の斜面をわざわざ切り開いてゲレンデを作っておいたのだ!世界初のスキー場だぞ」
「センセ、こっちから敵が来たらどうすんですか!」
「大丈夫か。上から大桶や丸太や丸い岩をこの斜面に転がすから」
「なるほどねえ」
「さあ、みんなスキーを履いて行くぞ!ゲレンデが俺たちを呼んでいる!」
「「「はい!」」」
ーー土岐の殿さまのやりなおし 番外編 ゲレンデのお殿様の巻 おしまい--
土岐の殿さまの雪山行軍 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
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