第7話 奴隷商

夕日が差し込んでいる薄暗い部屋の中で俺は目を覚ました。


気分は最悪だった。

身体全体が水の底に沈んでいるかの様に重い。


寝る前の目論見通り、この身体の記憶は思い出すことが出来た。

しかし多くの情報が入ってきたせいなのか凄く頭が痛い。


このままもう一度眠ってしまいたいがこれからの立ち回り方を考えなければいけない。


この少年についての事が分かったのは良いとして、俺がどうしてこうなっているのかは不明のままだ。


でもこうなってしまった以上はこのアーク・レスラントという少年としてこれから生きていかなければならない。


幸いこの少年は引きこもりだったようだから多少の性格の変化は誤魔化せるだろう。


問題はこれから俺がどうするべきなのかだが…


確か記憶の中では父親と契約を交わしていたから一先ずそれに従っていれば良いのだろうか?


まあ、しばらくは流れに身を任せるしかないだろう。


そう考えがまとまったところでメイドさんが夕飯をどうするかを聞きに来たのだがご飯を食べる気分ではなかったので、それを伝えた後、俺はそのまま眠りについた。








そして翌朝、メイドさんに起こされた俺は朝食を取った後、父親に連れられて馬車に乗り奴隷商へと行ってきた。


奴隷商と聞くと悪いイメージしか浮かばないが実際には人材斡旋所と言った方が正しいようだ。


なんでも、今から200年ほど前、当時勇者と呼ばれていた人が奴隷制度の待遇改善を行い、それによって言葉通りの奴隷は居なくなったのだとか。


例え人が売られていたとしても待遇はかなりきちんとしているらしい。


では、なぜ奴隷商という名前なのかと言うと、奴隷として魔物が売られているからだそうだ。


人の奴隷が居なくなったことで過酷な肉体労働を変わりに行うものを探して目をつけられたのが魔物だ。


元々闇市で売られていた魔物が改革をキッカケに各国で合法化されて今に至るという事らしい。


そしてその魔物の中でも一番の高額商品が竜の卵だ。

ちなみに成体が直接売られて居ないのは、竜の成体は奴隷契約で制御することが出来ないため卵の状態から自分のことを親だと認識させて抵抗感を無くす必要があるからだそうだ。


そんな竜の卵は手続きがかなり面倒臭く、返品不可や管理に失敗しても奴隷商側は責任を負わないといった内容の誓約書を交わした後、実物は後日届けられるとのことなので今日はこれで帰ることになった。




屋敷に帰ってきてからは、剣術と魔術の訓練をした。

どちらも最初はどうすればいいのか分からなかったけれど、少しずつ記憶が戻ってきたことで以前までと変わらない水準にすぐ戻っていった。


やはりこの体は才能に溢れていることが確認出来た。

しかし、あのレリア・シュトラスには遠く及ばないだろう。


俺がどれだけ努力したとしてもあれよりも強くなれるイメージが全く湧かない。

だとしても前の記憶と比べれば遥かに優れているのは確かだ。

今はそれだけで満足していよう。

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転生した異世界で怠惰なダメ貴族を目指す ニスリア @kuronoa1018

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