この手のひらの灯が世界を照らす

ねこ沢ふたよ@書籍発売中

第1話 失敗の果てに

 すでに幾夜このように夜中にフラフラと歩くはめになったか分からない。

 何度新しい材料を探し出してきて挑戦しても上手くはいかない。

 もっと強い繊維の植物で、もっとしなやかな素材で、そう問屋に注文しても、冷笑を浮かべながら「そんなものは、この世に存在するわけがない」というばかり。


 問屋の言う通りかもしれない。自分の求めている物とは、今のこの世界にはないのかもしれない。

 

 何度か脳裏をよぎる不安に飲み込まれそうになる。

 そのたびに、こうやって行くあてもなく夜道をフラフラと散歩するのだ。


 灯し忘れた街灯が点々と暗く、灯る街灯も不安定な弱い光で道を照らす。

 もし、俺の作っている物が成功すれば光は、もっと力強く長く輝き、送電線から送られる電気により自動で灯る。


 灯し忘れなんて間抜けなことは起こらなくなるのだ。

 世の中から闇は遠ざかり、世界は光に包まれる……。だが、肝心のそのための素材がどこを探しても見当たらないのだ。


 コツン


 革靴の先にあたる物がある。

 何だろうと手に取ってみれば、日本という国の扇だった。

 一度、取引先の社長の家の夫人が、嬉しそうに見せてくれたことがある。たしか、扇子という名の物。


 扇子を開けば、美しい月夜に雁が飛ぶ姿が描かれている。

 白々と輝く満月の絵は、真夜中の暗がりの中でも美しい。その上に、すっと簡単に描き表された雁の群れはシンプルな技法であるのに、まるで今そこに飛んでいるかのように生き生きと躍動感がある。


 絵に魅入られて、あの時の夫人がしていたように扇子で仰げば、思った以上に涼やかな風が起こる。

 ……なんともしなやかな……。

 見れば、骨組みには、見たこともないような木材。

 試しに曲げてみれば、弾力をもって抵抗してくる。


 これだ。


 どこの誰が落としたのか分からないそれを持って、俺は実験室に走る。

 フィラメントは完成した。エジソンの名は、驚きを持って世にさらに轟いた。

 

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