ピンクとみどり、少しのむらさき

CHOPI

ピンクとみどり、少しのむらさき

 優しいピンク色に染まったおもちは、塩っ気のある葉っぱに包まれている。中心には色鮮やかな紫色のあんこが包まれていて、全体のバランスを引いて見れば、その見た目はどこか可愛らしくもある。見るだけで季節を感じられ、食べれば美味しい素敵な和菓子のひとつ。


「やっぱりこの時期は、さくらもちだよねぇ」


 その言葉には誰が反応を返すわけでもない。……当たり前だ、今、私は部屋で一人。窓を開け放って、まだ少し肌寒い風を感じながら、夜のおやつタイムを開催している。明るい月光の照らす先に、私がベランダに置いた小さなプランターがあって、つい先日、そこから小さな緑がひょっこり顔を出した。その小さな緑を眺めながら、いよいよ来るであろう『春』に胸を躍らせつつ、この素敵な夜のおやつタイムをひとり、楽しんでいるのだ。


 なんて贅沢な時間なんだろう。この時間こそ、至福のひと時だ、と思う。っていうか、夜のこの時間のおやつタイムだからこそ、その背徳感も相まって『贅沢な時間』って言う感じが本当に“良い”。……身体にはあまり良くないことも自覚しているので、たまにのストレス発散方法、だけど。


「この時間に甘いもの……。ギルティ……」


 そんなことをひとり呟きつつ、めんどくさがらずにたまには、とこの時間おやつ専用に買ってある少しだけいい緑茶を、それはそれは丁寧に急須に入れて、ちゃんと蒸らしてしっかり淹れる。春を感じ始める季節とはいえ、まだまだ暖かい緑茶が美味しい。


 小さい頃、正直私は柏餅との差があまり分かっていなかった。葉っぱを食べて良いおもちと、食べちゃダメなおもち。そんな認識。で、結局、いつもどっちが葉っぱを食べて良いのかわからなくて、お母さんに尋ねていた。

 ――触って硬い葉っぱは美味しくないから、葉っぱを食べないおもち

 そう教わったけど、結局良くわからなくて、実は何回かかじった記憶もある。キャベツとレタスが似てるとか、ピーマンとパプリカが似てるとか、私にとってはそんな感じの延長線上。


 大きくなってからは、あんなにわからなかったはずの2つの違いを、『見ればわかるじゃん』って言えるようになるくらいには成長した。そしてその上で、もちろん柏餅も大好きだけど、私はさくらもちの方が好きだったりする。


 もちもちと柔らかいピンク色の柔らかいおもち。独特なさくらの香りと葉っぱの塩気。それがあんこの甘さを最大限に引き出していて、口に入れた瞬間広がる幸せな世界エデン――……


 緑茶をすすりつつ、さくらもちを一通り楽しんでから、何気なくスマホでさくらもちを検索していた。ピンク色の華やかな色は、小さな画面で見ても鮮やかで可愛らしい。そんな中、気になる文章を見つけて詳しく読んでみれば、思いもよらなかった発見があった。


「さくらもちって、季語なの!?」


 全然知らなった。雛菓子のひとつなのは知っていたけれど、まさか季語ですらあるなんて。しかも関西風・関東風の他にも、実は地方によって違う形もあるんだとか。……キミって、結構すごかったんだね、さくらもち……。


 こうしてまた一つ。どこに需要があるかもわからない、微妙な知識を蓄えた私。

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