明日の光・リライト

人生

アスノライトリライト




 やっぱりスマホは繋がらない。


 暗い部屋にぼんやりとした光が二か所。スマホを消すと明かりは一つに。もう一つはカーテン越しに。まるで生地がほのかに発光しているかのよう。


 外を覗くと、ちょうど月が雲に隠れてしまった。

 あっという間に景色は闇に包まれる。


 真っ暗闇だ。少しの不安と、うずうずと湧き上がる好奇心。


 こんな夜なので家族は既に眠っている。たぶんご近所さんもだいたいそう。いつにも増して静かな地方都市の片隅である。


 スマホの光を頼りに、防災対策で用意していた懐中電灯を取り出す。


 私は夜の街に飛び出した。




 懐中電灯の光が見える。

 曲がり角から現れた誰かもこちらの光に気づいていて、自然とライトを下に向け、すれ違いざまに軽く会釈。相手の顔も見えないし、見えてもたぶん知らない人だ。でも、その考えはなんとなく分かった。


 ――こんな夜だもの。


 ゆっくり楽しみたいところだが、いつ復旧するかも分からない。私は先を急ぐ。


 向かったのは、住宅街の近くにある小高い丘の上。程よく街並みが見渡せる。


 そこには先客がいた。


「……もしかして、先輩?」




 ――こういう映画があるんだよ、と先輩は言った。


「主人公が過去にタイムスリップした影響で、大停電が起きる」


「……誰かが未来からやってきたとしたら、なんのためでしょう」


「その映画だと、テロが起こるんだ」


「これから何か起きたりして。このまま電気も直らないかも」


「それを止めに来たんだよ」


 一風変わった夜なのに、交わされるのはいつものやりとり。


 闇に沈んだ街並みに、空から光が降ってきた。

 雲間から地上を覗いたお月様、今夜は真ん丸、満月だ。


 ……ある、有名な台詞が浮かぶ。


 たぶん先輩に言っても言葉以上の意味は伝わないだろうけど――


「今夜は、月がきれいだね」


「……え?」


 思わず振り返ると、先輩はあからさまに顔を背けた。


「もしかして先輩、ですか?」


 ……なんて、ね。



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明日の光・リライト 人生 @hitoiki

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