星降る草原

葉舟

第1話

 星降る夜に草原に向かった。

 真昼のような煌々とした月に照らされて、星々が草原に降りてくる。


 地面に激突する様な勢いで落ちて来て、数度跳ねた後、楽しげに走り出す。転げるように走り、星々が集まり輪になると、踊りだす。


 星降る夜の特別な日にだけ見られる、星々のお祭り。


 深夜に散歩がてら星々のお祭りを見ものして、特別な日の特別な場所でしか得られない魔術素材を採取する。


 浮かれた星々に誘われて、踊りの輪の中に入ると、星々に取り込まれてしまう。だから、少し離れた場から楽しそうな様子を見ている事しかできない。


 楽しく危険な祭りだからこそ、魅入られ、惹かれて、星の眷属にされる魔術師は多い。


 星降る夜に、帰れなくなる魔術師は常に一定数おり、いつか自らもあの輪の中にと、誘惑される。

 そんな想いを持ってしまえば、先は長くない。けれど、星降る夜にだけ得られる星の欠けらを採取したい誘惑にも抗えないでいる。


 キラキラひかる星の欠けらを、地を這うようにして虹硝子の瓶に集めた。


 楽しそうに踊る星々と魔術師は、時間と共に増えていく。欲に駆られて星の欠けらを集め、帰れなくなった魔術師のなれ果てが、いつかの未来の星の欠けらになる。


 かつて魔術師だった星の欠けらは、そのままでも魔術を使うための優れた媒体で、上手く抽出できればかつて魔術師だった者の智が得られた。

 知識は、魔術師にとっての力の一端でもある。


 星々の祭りは、見れば見るほど焦がれてしまうのに、星の欠けらを集めずにはいられない魔術師のさがは業が深い。


 いつか星々に取り込まれると知って、星降るよるに魔術師は草原に向かってしまう。

 星の欠けらを集めた虹硝子を月にかざす。


 月にも星の欠けらは降るのだろうか。ならば、いつか月にも行けるかもしれない。


 今回の星降る夜もまた生き残ったと、戦利品を手に、祭りの終わりを告げる太陽光を浴びて魔術師は草原を後にした。

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星降る草原 葉舟 @havune

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