魔女リルフィアの深夜の散歩

友斗さと

第1話 深夜の散歩で起きた出来事


「あ。もうこんな夜になっちゃったのか」


魔女リルフィアは窓の外に浮かぶ月を見上げてそう呟いた。


リルフィアは本屋を営む魔女である。だが町の隅にこっそりと店を構えているので、昼間はほとんど暇なのである。静かな本屋でのんびり読書して過ごすのが、リルフィアの日課だった。

 そのためこうやって、夜になってしまう事も少なくない。


 そろそろ家に帰らなけば。家に帰ってもぬいぐるみしか待っていないのだが。


ーー帰ろう。


リルフィアは帰り支度を済ませて、帰路についた。


 あたりは真っ暗で何も見えない。

 今夜は新月なので小さな星の光だけが頼りである。だがリルフィアはそんな暗い中を歩くのが嫌いでは無かった。

 誰にも見えないこの環境では自分を思いっきり曝け出せる気がするからだ。鼻歌なんか歌ったりして、リルフィアは上機嫌で深夜の散歩を堪能していた。


 その時、リルフィアの目の前を不審な光が横切った。松明の明かりくらいの大きさの黄色っぽい光だ。その光は付いたり消えたりしながらふわふわと彷徨っている。


ーーもう、そんな時期ですか。


少し汗ばむ季節になってきた初夏の頃。

 この光はよく目にすることができる。


 そう、蛍である。


 世間一般では小さな虫なのだが、この地方の蛍はとても大きいモンスターなのだ。

 蛍はゆっくりと地面に降りた。


「久しぶりだねえリルフィア」

「お久しぶりです。お元気そうです何よりです」

「おかげさまでね。この前、孫が生まれたんだよ」

「それはおめでたいですね」


この蛍とリルフィアは顔見知りであった。なんせこの蛍……いや、この地方の蛍を大きくしてしまったのはリルフィア自身なのだ。


「まさか孫の顔が見られるなんて思っていなかったからね。嬉しい限りさ。体が大きいだけで外敵からも襲われにくくてね。ありがとうね、リルフィア」


あの時の決断は正しかったのだろうか、とリルフィアは今でも悩むことがある。

しかし、蛍は思いの外大きい体で満足しているようである。


リルフィアは笑顔をこぼした。


深夜の散歩の思わぬ再会は、リルフィアの心を明るく照らしたのだった。


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