あっ。

ナカ

慌てて手を伸ばしても、掴めないそれ。

 造っていたはずの造形物は、うっかり手を滑らせて床の上へ。

 鈍い音を立てて落ちたそれは、接触した部分が激しく損傷し歪な物に変わる。

「あーあ」

 こうなってしまったらもう商品に出来ない。完全な失敗作に吐いた舌打ちは、これで何度目だろう。

 みんなと比べると不器用だという事は分かってはいたが、今まで一度たりとも成功したことのない完成品にいい加減焦りを感じ表情が歪む。

 与えられたチャンスは既に残りの数をカウントする方が早い状態で。これ以上の失敗は許されないという状況まで追い込まれ立たされた窮地。残された材料も少なく、多分形を作ることができるのはこれが最後の一回と言うことになるだろう。

「ふぅ」

 だからこそ慎重に、今度こそ成功させるためにとゆっくり手を動かしていく。

 柔らかい素材を丁寧に机の上に移動させると、ある程度の弾力が出るまで根気よく捏ね上げる。

 その過程で触れる感触はいつまで経っても慣れないが、これを失敗すると後の行程に大きな影響が出てしまうのだから仕方が無い。

 そうやって時間を掛けて程良い堅さにまでまとまったそれは、次にヘラを使いながら少しずつ要らない部分を削り取っていく。

 出来るだけ造形は美しい方が良い。

 不器用ながらも繊細に手を動かすよう努力を続け、やっとの思いで納得のいく形が出来て吐いた安堵。

 だがまだ、安心するには早いのだ。

 私は必ず最後の最後で、何かしら大きな失敗をやらかしてしまう。

 そのせいで同じ作業をやり直したことは数知れず。

 廃棄ボックスの中に放り込まれたぐちゃぐちゃの作品の数が私の失敗回数なのだから、それを見る度本当に気が滅入る。

 だからこそ今度は失敗する事は許されないのだ。

 深く吸い込んだ息をゆっくりと吐き出しながら、次の行程に作業を進める。

 此処で焦らなければきっと、今度こそ成功するだろう。

 そうやってやっとの思いで完成品をあとは固めるだけと言うところで訪れたのは悲劇で。

「あっ」

 その言葉が口から零れた瞬間、造っていた作品は私の手を離れ床の上へと落ちた。


 足元にはぐちゃぐちゃに崩れた造形物。

 中身が全部ぶちまけられて、真っ赤に真っ赤に染まっている。


「やはり、君には命を創り出す才能は無かったようだね」

 告げられたのは非情な宣告で。

「君は生み出すよりも奪う方が向いている」

 そう言って押された書類に記載された文字は「死神」という言葉。

「私は……それを望んでは居ません」

 そう懇願しても試験官は首を振るだけ。

「もう一度…………チャンスを」

 そう言って泣き崩れた私の肩を優しく叩くと、試験官は次の受験者の元へと去って行く。


「なんで……こうなっちゃうのかなぁ」


 私には生み出す才能が無い。

 ぐちゃぐちゃに壊れた人型の器。

 それは慌てて手を伸ばしても掴めなかった誰かの命。

 私が破壊した人の運命は、もう二度と戻らないのだということを、私は改めて思い知らされるのだ。

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あっ。 ナカ @8wUso

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