深夜の散歩で起きた出来事

斉藤一

深夜の散歩で起きた出来事

 星が綺麗だったので、夜の散歩に出る事にした。時計も午前0時を回り、街明かりはほとんど消えている。天気予報通り、今夜は満月の様だ。

 散歩をしようと思ったのは、私だけじゃ無かったようで私の前を歩く女性が居た。あまり近づきすぎると、不審者に思われるかもしれないので50メートルは離れて歩く。それでも、女性は私の足音に気が付いたのか、一回だけ振り向くと早足で進んでいった。


「別に、何もしやしないのに」


 少し気分を害されたが、空を見上げると綺麗だったので、心が落ち着いた。毎日、これだけ綺麗ならいいのに。

 前を向きなおすと、ずいぶん前に女性は進んでいた。そして、横道から何かが女性に飛び掛かるのが見えた。女性は声を出す間もなく押し倒され、そのまま引きずって行かれた。


「た、大変だ。警察を呼ばないと!」


 暴漢にしろ、動物にしろ、私に対処出来るとは思えなかったので電話ボックスへと走る。どうせ電話をかけることは無いと、携帯は家に置いてきてしまったのだ。幸い、財布に家の鍵を入れているため、小銭はある。近くの公園へ入り、電話ボックスへ入る。そうだ、緊急電話は小銭が要らないんだった、と無駄に取り出した財布を握りしめたまま、受話器を取る。そして、緊急ボタンを押そうと思った時


 バンッと電話ボックスへぶつかる何かがあった。見ると、口から血を流した女性だった。


「助け――」


 女性は「助けて」と言いたかったのだろうが、言い切る前に何かに連れていかれた。ガラスには、女性のものと思われる血が付いていた。

 私は何とか、警察へと電話し警官を待った。到着した警官に事情を話す。

 事情聴取にも時間がかかり、散歩どころではなくなったので家へと帰った。


 翌日、女性が大型のドーベルマンに噛み殺される事件があったと報道されていた。

 しかし、私が見たのはドーベルマンなどではなく――。この話は、内密にと言われている。

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