深夜コンビニへ行ったらコミュ障の化け物がおった

クマ将軍

二度見から始まる異種族交流(交流するとは言ってない)

 深夜の散歩はふとした気まぐれからだった。

 いや、別に深夜に叩き起こされ、試験勉強をする妹のために夜食を作ったせいで目が覚めたとかは断じてない。断じてないのである。


「ふぅー寒いなぁ」


 田舎の冬は本当に寒い。なのに外に出たのは軽い食べ物を買うためだった。夜食を作っている際、料理の匂いに当てられお腹が鳴ってしまったのだ。だというのに食材は妹の分で終わり。こうしてコンビニで済まそうと考えて外に出かけた。


「人全然いないなぁ」


 まぁ田舎だから当たり前か。

 それでも深夜であるにも関わらず、人で溢れ返っている都会よりマシかもしれない。女性が一人で歩いていたら危険な場所なので、今住んでいる田舎はかなり気楽だ。


「あっ、いらっしゃいませー」

「夜遅くお疲れー」

「小夜ちゃんこそどうしたの〜? あっもしかしてお腹空いたの?」

「あったりー。妹に起こされて夜食作って上げたんだけど、それでねー」


 人口の少ない田舎だからか、深夜であるにも関わらずコンビニに入ると顔見知りがバイトをしているところに出くわす事が多い。私はその顔見知りと軽い会話を交わし、マイペースに棚の品を物色する。片手で持てるものと、熱いコーヒーでいいかと適当に決めた私は、それらをレジに持っていき会計をする。


「ありがとうございましたー」


 店員の声を背中から受けながらコンビニから出て、同じく入り口近くで買ってきたものを食べる猫の化け物を一瞥して、私も食べ始める。


「……ん?」


 今、私は何を見た?


「……」


 ゆっくりと隣にいる存在に目を向ける。

 ヤバイ。なんかおる。ずんぐりむっくりとした猫の化け物がおでんを食おうとして、私と目があってしまう。


 両者暫しのフリーズ。外が寒いだけに。

 いや違う。そんな洒落を言うつもりじゃない。


 私はさりげなく、さりげなーく目線を元に戻して何も見ていなかったかのように買ってきたものをマイバッグから取り出す。


『……え、い、今、あ、こ、この人間と目があ、目があっ……た……?』


 猫の化け物がすんごい吃りながら呟く。

 いやそれは私のセリフじゃい。

 それは私が現状言いたいセリフランキング一位なんじゃい。


『で、でも……隠形の術はやったよね……? あ、あれ? 大丈夫? 妾はちゃんと隠れてるよね? 人間に見られてないよね?』


 しかも一人称妾かよ。

 大丈夫私は見てない。何も見てないし、見えてないから。きっと何かの事故か勘違いだから。だからジッとこっちを見るのやめて。


『いやでも勘違いだったらどうしよう……? 勘違いしてこっちから話しかけたら妾痛い子に見えるよね……?』


 なんだこいつコミュ障みたいな発言しやがってよぅ。

 私が気付いていないと思ってジッと見つめて、私がそっちに目を向けたら急いで目を逸らすんだろ? 分かる分かるよ。私も都会だとコミュ障だったもんよ。


 はい目を向けるよー? 向いたよー?

 はい目を逸らしたー。こいつ確定でコミュ障です。

 だからなんだ。


『どうしようこの人間から先に離れてくれないかな……? でもついさっき何かを買ってきたばかりだよねこの人間……』


 なんでそういう事をわざわざ口に出して言うの?

 あれか? 姿を隠しているから普段独り言を言っているのが癖になっているんだな? 十中八九そうだとしてもそのセリフを呟いたタイミングで私が離れてみろ。まるであなたの呟きに反応して行動したような感じになるじゃん。


 推定バレから確定バレになるじゃん。


『でもこの人間が妾のことを見えているのなら、妾から離れるのもこの人間を避けてるみたいで嫌だな……』


 あーなるほどね。

 電車とかでよくある他にも席があるのに何故か隣に座ってくる奴ね。なんで私の隣に座ったの? とか言いたいし、他の席に行けよと思っても他人だから言うに言えないよね。分かる。


 そんで私が席を離れて別の席に移動したら、その人が「え、もしかして俺を避けてる?」って思われるのも嫌だよね。まるで自分が嫌な性格の人じゃんって感じてしまうんだよ。


 いや悪いのは隣の席に座ってきたお前なんだけどさ。

 なんでこんなモヤモヤになる事をしてくるの? って毎回思う。

 いやでもこう思うのはコミュ障の私だけかもしれない。普通の人なら隣に誰か座っても気にしないかも。


(あー早くそっち食べ終わってくれないかな……)

『あー早くそっち食べ終わってくれないかな……』


 私の心とシンクロしちゃったよ。マイベストコミュ障フレンズだよ。

 相手が猫の化け物だからこれが本当のけも○フレンズ……違う、そうじゃない。


『あっ……食べ終わっちゃった』


 よし! よし! 相手の方が先におでんを食い終わったぞ!

 これで私から離れてお互い別の世界(比喩なし)で生きようや!


『……』


 だと言うのに猫の化け物は微動だにしない。

 何故? ホワイ? どうして離れていかないの?

 いや、違う! これはまさか!?


 ゴミ箱だ!! 私の後ろにゴミ箱がある!!


 こいつ、ゴミをゴミ箱に捨てたいけどゴミ箱の前に私がいるから捨てられないでいるんだ! しかもコミュ障だから私に話しかけてどかすことも出来ない!


 なんてこった。私は猫の化け物を認識できていないように振る舞っている。猫の化け物は私に話かけられないでいる。詰んだ。これは最早詰みだ。


 いや私が早く食べて移動すればいいだけの話なんだけど。


 と、そこに。


「いやぁこんな寒い中よく外で食べてますよねー」


 顔見知りの店員がゴミ袋を持って中から出てきた。

 私はそのゴミ袋を見て絶好のチャンスだと内心喝采をあげる。


「いやぁこのコンビニってイートインがないしねー?」


 よし、ここで私は店員さんに譲る形でゴミ箱の前から離れる!

 完璧だぁ……。私の頭脳は冴え渡っているぅ……。


 店員さんがゴミ箱にゴミ袋を入れて、コンビニの中へと入る。

 残るのはゴミ箱の前から離れた私と、スタンばっている猫の化け物のみ。

 さぁ、ゴミを入れろ……入れてしまえ……。


 これで今夜の出会いはなかったことに……っ!!


(……あれ?)


 そう思っていたのだが何故か猫の化け物は動かない。

 チラリ、チラリと私を見るだけで動く気配すら見せない。


(もしやこいつ……)


 こいつの心理を一番よく分かっている私には心当たりがあった。


 ――こいつはもしや自分のパーソナルスペースが恐ろしく広いのでは?


 そう考えれば納得がいく。

 パーソナルスペースとは自身の一定範囲内に他人が入ってくることに我慢できない範囲である。多分大体そんな感じ。少なくとも私は自分のパーソナルスペースに誰かが侵入したら動悸を覚えるレベルだ。


 こいつの状態はまさにそれだ。


 私がゴミ箱の前から移動しても完全に離れたとは言い難い距離で、おおよそ猫の化け物の体格一匹分にプラスちょっと余分なスペースを足した程度。

 ゴミを捨てられるがそのすぐ後ろに私がいる程度の距離なのだ。


 それをこいつは耐えられない。

 だからゴミを捨てにいけない。


 いつまで経ってもこいつは動かない。

 そして時が経てば経つほど、私の今いる距離じゃ不自然になる。


 あかん。ヤバイ。

 結局のところ、不自然になる前に私はゴミ箱の前へと戻ってしまった。


『……』

「……」


 再び膠着状態になってしまった私と猫の化け物。




 結局、私が食べ終わるまでそんな状態のままだった。

 別の日に、また深夜の散歩でこいつと出会うのはまた別の話である。

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