KAC20234 日課の散歩と幼馴染?の彼女

久遠 れんり

たぶん俺は嫌われ者?

 僕が嫌われていると分かったのは、小学校の5年生の時。


 それまで、一緒に遊んでいた女の子たちが、口々に叫ぶ。

「たけるくん。近づかないで」

 そう言って離れて行き、それ以降。

 遊んでくれることは無くなった。


 男友達は、遊んでくれたけどね。


 だがそれも、中学校まで。

 入学後。1週間もすれば、友達は居なくなってしまった。


 僕自身は、普通だと思う。

 勉強もそこそこできるし、運動もそれなりにできる。

 実生活では、友だちらしい相手はいないが、オンラインの友達はそこそこいる。


 そんな生活をして、高校へ。


 期待をして、入学したが、1月もすれば同じ状況になった。


 だが、理由が少し違った。

 男友達は理由として、『彼女ができたから、お前と遊べない』と言うのが、最も多かった。

 彼女を優先。それは分かる。僕よりも彼女。当然だろう。

 それでも、オンライン上では、ゲームなどに付き合ってくれた。


 高校に入学するため、勉強中。

 気分転換と息抜きに始めた散歩。

 なぜか今も続いている。


 補導されるから、当然深夜ではない。


 それでも、夏休み間際の時期。

 風が、少しぬるむ時間。


 近くの、自販機でジュースを買い。

 いつもの神社へ向け、境内の石段を登っていく。


 その日は、いつもと違った。

 この場にはふさわしくない、数人の男の声と、嫌がる女の子の声。


 おれは駆け出し、声の方へ向かう。


 男たちに対峙して、くるっと後ろを向く。

 そして、

「お巡りさんこっちです」

 そう叫ぶ。


 それを聞き、一瞬ひるんだようだが。

 当然。現れない警察官に、抑止力はない。


「ほうそうか。何処にいるんだぁ。お巡りさんは? なめたこと、言ってるんじゃねえぞ。おらぁ。正義の味方でも気取ってんのか?」

 背後から、そんな声が聞こえる。


 それ以外に、どう見える。


「あーそうだね。来ないね」

 あきらめた俺は、そう言って。振り向く。


 なぜか相手が、一瞬驚く。

 だが、それだけだ。

 

 躊躇なく、殴りかかって来る。


 そばで、

「ダメ。そんなくらいなら、私がレイプされる方が良い」

 そんな声が、聞こえる。


 当然僕は、そんな声は無視。

 頭の中で、コントローラーを操作する。


 相手のパンチをかわして、手首を持つ。

 ひねりながら、相手の頭の方まで、手首を持っていくと、勝手に相手が倒れる。


「秘技。小手返し」

 技名をつぶやく。


 両方が素人の為。

 相手の肩が、どうにかなったのだろう。

 呻いている。


「やべ。逃げよう」

 そう言って、駐車場に無造作に駐めてある。

 窓が真っ黒いワンボックスへ、走っていく男たち3人。


 とっさに、写真を撮る。

 暗いが、街灯の明かりで、ナンバーは何とか写った。


 車が居なくなったので、安心して女の子の方を見る。


 ストッキングが破れて、膝から血が出ている。


「近くにアパートがあるから、移動しよう。ここだと、奴らが戻ってくると面倒だ」

 そう言って、彼女に背中を向ける。

 理解してくれたのか、恐る恐る乗って来た。


「ねえ。たける。その辺りに、私の靴とバッグ落ちてない?」


 うん? なんで俺の名前。


 まあいいか、探すのが先。

 車から逃げるときに、こけたらしく、靴を拾い。

 とっさに、遠くへ意図的に投げたという、バッグも見つけた。


 家へ向かいながら、話を聞く。


「駅前から、家の方へと向かっていると、住宅地なので道が狭いでしょう。車が来たから脇によけたら、いきなり車が、横で停まって。うん?と思ったら、引っ張り込まれたの。私が暴れるものだから、近場でいいやって。誰かが言って、あそこへ連れていかれたの。停まって、すぐに助手席の奴が出てきて。相手が後ろのドアを開ける前に、私を抑えていた、後ろの男に頭突きして、ドアが開いた瞬間。ドアを開けた奴を思いっきり蹴って、逃げたんだけど、思ったより、座先が高くてこけちゃった。もう少し、あなたが来るのが遅ければ、奴らにやられていたわ」

 そう言って笑い。ぎゅっと抱きついてくる。

 怖かったのだろう、震えているのがわかる。


 やがて家に着く。

「相変わらず大きい家ね。家族は?」

「最近忙しくて、まだ帰って来ていないようだな」

 そう言いながら、玄関に入る。


 靴を明るい所で見ると、少し傷は入っているが、大丈夫そう。


 そのまま、おんぶしてリビングへ向かう。

 ソファーへ彼女を下ろして、キッチンでボールにお湯を入れる。

 タオルを持ってきて浸す。

 本当なら、洗った方が良いんだけどな。


 そう思いながら、彼女を見る。


 あれ? この顔、知ってる。

「ひかりだったのか」


「えっ。今まで、気が付かなかったの? ひどっ」


「だって、まともに話をしたのって。小学校の5年の時が最後だろう? なぜか、あれから皆。俺に近づかなくなったし」

 僕がそう言うと、あっと言う顔をして、少し困った顔をする。


「傷口痛いだろうが、本当は洗った方が良いんだ。どうする?」

 そう言って、一応タオルを見せる。


「変な奴らに触られて、気持ち悪いし。シャワー貸して。抱っこして行って。はい」

 そう言って彼女は、手を伸ばしてくる。


「なんだよそれ? もう、近づいてもいいのか。あの時、すごい勢いで。『近付くな』って、言われたんだけど」

 そう聞くと、なにかを思い出したのか。笑い始める。

 いや。こっちにしてみれば、笑い事じゃないのだが。


「莉子もいないし。時効よ時効。もう、子供じゃないし。すなおに気持ちに従う」

「莉子? 莉子って郷田か?」


「そうよ。あいつ。子分を連れて質(たち)が悪かったの。けれど、私と違って勉強までは、できなかったみたいね」

 そう言ってなぜか、あわてて口をおさえ。

 俺を、上目遣いで見る。


 しばらく見ていなかったけれど、かわいくなったな。

「なに? そんなに、見ないでよ。それとも、かわいくなったとでも思って、目が離せない?」

 そう言って、小首をかしげ。

 自分のほっぺたに、人差し指を伸ばす。

 僕は、図星を指され、焦る。


 ごまかすために、

「その恰好。昔からよくやっていたな」

 そう言って、思わず笑ってしまう。

 何年ぶりだろう。


「ねえっ。お願い。足が痛いの。だっこ」

 そう言って、再び手を伸ばして来る。


 諦め、正面から抱えに行くと、

「違う。お姫様でしょ」

 そんな、苦情を言われる。


 こいつには、時間のギャップが全然ないのか?

 俺はあのときから、ずいぶんと苦しみ。

 人との付き合い方も忘れ。

 ずっと、悩んでいたのに。こいつは昔のまま。


 そう思いながら、抱っこをする。

 風呂場で降ろし、バスタオルと、フェイスタオルを渡す。


 体を洗うのは、俺の海綿を使ってもらおう。

「体を洗うのは、青の毛糸で吊るしてあるのが、俺のだから使って」

 浴室のドアを開けて説明する。

 家族の入浴用具は色によって分けられている。


 ローブも、これを使ってね。

 そう説明して、浴室を後にする。

 その間に、湯上り用の温かいハーブティーを用意する。



 うっきゃあぁ。

 たけると、数年ぶりに話をした。

 それも、ハプニングのおまけつき。


 実際。すごく危なかったけれど。

 今回ばかりは、あの名も知らない馬鹿達に感謝だわ。


 それより。

 話した感じだと、自分で全く理解していないのね。


 避けられる原因。


 中学校の時までは、あいつ。莉子のせいだけど。

 高校では、周りの男子がかわいそうだよね。

 ふふっ。私は、この機会を無駄にしない。


 親に連絡をしておこう。

 そうして親に、詳細を教える。

 今から帰るのは怖いから、たけるの所に泊まると連絡を入れた。

 お父さんとお母さん。

 お父さんの「迎えに行く」と言う声と、「チャンスよ、ひかり」と言うお母さんの声。その後、けんかの声が聞こえたけれど、まあいいわ。

 

 バスローブね。

 ふふん。

 着替えは、どうしようかな?


「たける。だっこぉ」

 脱衣所から、そう叫ぶと、

「ほーい」

 と、そんな間抜けな返事が聞こえる。


「だっこ」

 あらわれた、たけるに絡みつく。


 抱っこをされて、再びソファーの上。

 飲み物? 

「ああ。それ飲んで。湯上り用に、少しぬるめのローズヒップベースのお茶」

 そう言って、横から私の膝をのぞき込んでいる。

「擦りむいただけだろうけど、痛みが続くなら病院に行ってね」

 そう言って、湿潤系の絆創膏をべたっと張ってくれる。

「こっちも」

 そう言って、左足をたけるに向けて、振り上げる。

 たけるの肩へ、膝を引っかける。


 すると、たけるの顔は、必然的に私の足の間。

 これで、何が起こるのか。私は知っている。

 とっさに手をつき、こっちには倒れてこないけれど、目の前には。


 ほら。たけるが固まった。

「ねえ、ひかり。下着は?」

「そんなものは、洗ったわ」

「そっ、そうなんだ。あのね。言いにくいんだが、バスローブでその格好だと、君の大事な所が見えてしまうんだ。足を下ろしてくれないか?」


 じっと、赤くなっておろおろする彼を、見つめて私は宣言する。

「いや。あなたと一緒にいるために、同じ高校へ合格したのに。気が付いても居なかったでしょう?」

 そういうと、ほら驚いた。


「おんなじ高校?」

「うん。成績でクラス分けされるから、残念ながら私は2組だけど」

 そう言いながら、彼の肩から左足を下ろし、同時に上半身を起こす。

 今度は、彼の首へと腕を回す。


「ずっと好きって、言いたかったの」

 耳元でそっと言って、離れ際。

 そっと彼に、キスをする。


 ふーおおおおぉぉ。しちゃった。キスしちゃった。

 あー幸せ。

 彼は、固まっているけれど。


「今日のことで。大事な物は、さっさと好きな人にあげることに決めたの。だから貰って。それとも、私のこときらい。ひょっとして誰か付き合ってる?」


「いや。誰とも付き合っては、いないけれど」

「じゃあいいわね。ねえ。また、さらわれて、知らないやつになんて嫌なの」

 そう言って、もう一度キスをする。

 気合を入れて、舌を入れてみる。


 うーん。もういいや。

 女としてはしたないけど、押し倒そう。

 きっと嫌われたりは、しないよね。


 彼は、別に反抗と言うか、抵抗はしなかった。

 ただ、状況が分からないのか、呆然としていた。


 その後、もう一度絆創膏を膝に張ってもらい、小学5年生周りから誰も居なくなった事件の顛末を説明する。


 ああ。途中で、彼夢遊病のように、一度お風呂へ入ったの。

 当然私も一緒に。

 その後、彼の部屋へ行き。

 ベッドで話す。


「あのときね。郷田莉子が、あなたの事を彼氏にするとか宣言して、皆に近づくなって宣言したの。『近づく奴は、どうなるか分かっているだろうな』とか言って」

「なっ。でも、彼女に告白なんか。一度もされたことは無いよ」


「まあまあ。彼女もメスなのだよ。告白しようと何度もしたし、手紙を出そうともしたらしいけれど。出せなかったみたいよ。あなたに振られたら、生きていけないとか言って。それでも、ほかの子と付き合うのは許せないらしくてね。周りは威嚇し続けていたの。中学3年卒業まで、きっちり」


 それを聞いて、がっくりと力抜ける。

「そんなことで。俺は、寂しい中学時代を送ったのか。でも、男子は? なぜ、みんな離れたんだ?」

「いや。君の横に居ると言うだけで、彼を紹介しての嵐が来るのよ。それも、自分が好きな子から。まあ。中学校の時は、郷田莉子の影響もあったでしょうけれど、高校になって山田君だったけ? 一時期、つるんでいたでしょう」


「ああ。遊んでいた。今でもネットでは、一緒にゲームもしているよ」

「彼が。彼女ができたって、喜んで紹介してくれたの覚えていない?」

「覚えているけれど。どうして、お前がそんなことを知っているんだ?」

「そりゃ。あ~。あなたの事を知りたいから、スッ。ストーカーしていたのよ。近くの柱の陰で。何とかは見ていた。シリーズをリアルでやっていたの。……ちょっと、そんなに引かないでよ」


「……普通、引くだろ」

「だってぇー、莉子ほどじゃないけれど、私も怖かったんだもの。今日はほら。これ以上ない。きっかけができたから。確実にするために。すっごく恥ずかしかったけど。氷〇微笑ごっこからの、既成事実までフルコース。必死だったのよ。本当の本当に、今まで生きて来て。これ以上無いくらい。すごく恥ずかしかったけど、私はがんばった」

「それで、あんなに濡れ、もがもが」

 口を塞がれた。

「恥ずかしいから、やめてよ。もう。私の変じゃなかった?」

「いや、まじまじと他の、見たことないし。分からないよ」


 真っ赤になっている、ひかりをほっとき、話題を戻す。

「ああ。それで、山田がどうしたって?」

「えっ、ああ。彼女を紹介した帰り。いきなり、別れようって言われたみたいよ」

「へっ。なんで?」

「無自覚おそるべし。あなたのせいよ。別れた口で、そのまま、あなたを紹介してって言ったそうよ」

 それを聞いて、一瞬、馬鹿みたいに口が開いて、呆けてしまった。


「そりゃ、分かれて正解じゃないか?」

「そうだけど。本人は落ち込むわよ」

「ああ。まあ、そうだろうな」


「お母さんが、北欧系だったっけ?」

「ああ。おやじが、向こうの家具を仕入れに行って、嫁さんも仕入れたって言っていた」

「お父さんも、かっこいいものね。あなたも、髪は少しブラウンだけど、瞳はブルーでしょ。身長は?」

「いま182cmかな?」


「家もお金持ちだし。……ねっ」

「じゃあ俺は、嫌われていた訳じゃないのか?」

 そう言うと、ひかりは驚く。


「どうして、そんな話になるのよ?」

「いや、実際。小学校の5年生から、俺に友だちと言える人間は、一切居ないぞ」

「あーあーそっかぁー。本人としては深刻ね。それは、しかし。浮気の可能性はないわね。私としては、うれしいわ。一生懸命サービスするから、捨てないでね。あむっ」

「あっこら……」


 夏の夜。

 日課の散歩で起きた出来事で、俺は本当の事実を知った。


 一言いいたい。

 俺の悩み。

 原因は、実に下らない理由だった。


 その理由。

 俺が美形すぎると言う事。なんだよそれ。

 美形なら良いのだが、それが過ぎると、普通の人間は気後れして近付けないんだとひかりが教えてくれた。

 本人からすると、よく分からない。

 


 翌朝。

 二人がベッドで寝ている所を、親に見つかり思い切り怒られた。

 理由を言って納得してもらい、すぐにひかりの両親へと挨拶に行く。

 森田ひかりは幼馴染? から婚約者になった。


 ひかりのお父さんは、やっぱりこうなると思ったと、泣いていたようだ。

 お父さんには悪いが、俺としては、これからの高校生活で、少なくとも彼女は、そばにいてくれるらしい。安心したよ。


 だが、その後。

 婚約が知れ渡ると、なぜか、友人が大量にできることとなった。

 俺は不思議に思ったが、彼女にはあたり前でしょと言われ、あきれられた。

 婚約者ができたことで、僕は釣り餌から、撒き餌にジョブチェンジしたようだ。


 近くにいれば、紹介してと、女の子が寄ってくる。

 すると、奴には婚約者がいる。

 かわいそうな、あなたに朗報です。今ならデート代も全部出します。

 僕とお付き合いしませんか。そんな事が、僕の周りで密かに? 繰り広げられているらしい。


 いや賑やかで楽しいから、良いのだけどね。

 ああ。そういえば、ひかりを襲った奴らは、捕まったそうだ。

 余罪もたくさんで、おまわりさんからお礼を言われた。


 そして僕は、ひたすら夢見た楽しい高校生活。

 ひかりの、捨て身の行為により僕は手に入れた。

 彼女には、本当に感謝している。

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KAC20234 日課の散歩と幼馴染?の彼女 久遠 れんり @recmiya

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