爺ちゃん! 空から女の子が! [KAC20234]

イノナかノかワズ

爺ちゃん! 空から女の子が!

 小学生のころ。

 俺は夏休みになると田舎の爺ちゃん家に泊まっていた。


 爺ちゃんは猟師をしており、近くの山をいくつも持っている凄い人だった。

 俺はよく爺ちゃんの猟の見学をしていた。


 小学五年生くらいだったか。

 ちょうど、クラスで鬼の力を持つ少年と幼馴染の魔女の漫画が流行っていたころだった。

 あの頃の小学生は今の小学生よりも冷めておらず、凄い魔法使えるぜぇってクラスで楽しんでいた。


「儂だって魔法ぐらい知っておるぞ。ほら最近だと、アバダベダダベだったか? 薩摩の者たちが暴れるときに使うやつじゃな」

「え、何それ」

「何ってゲームじゃよ。ゲーム。魔法学校を舞台にした即死魔法で辻斬り……いや、大抵はアクセシオとかで持ち上げて、デパートで吹き飛ばす奇襲落下攻撃じゃったかの? そんなゲームじゃよ」

「え、何それ?」


 夜の山を散歩したなんて、クラスのみんなに自慢できるからな。俺は爺ちゃんのランタンに照らされる山の獣道を散歩していたのだ。


「爺ちゃん、本当に魔法って知っているのかよ? っつか、そんなクソみたいなゲーム、人気あるのか?」

「あるぞ。世界中で大人気じゃ」

「あったけな、そんな薩摩とかの魔法のゲーム……」


 爺ちゃんはよく頓珍漢とんちんかんなこと言うからな。

 猟以外のことはあんまり信用なんないんだよな。


 そう思っていたら、爺ちゃんがむっと頬を膨らませてた。

 可愛くない。気持ち悪い。


「露骨にひどい顔をするのぉ。まぁ、よい。それよりも、儂、本物の魔法使いに会ったことがあるんじゃぞ」

「え、それってまた訳もわからないゲームの話じゃないよな」

「ゲームの話なものか! 本物の魔法使いじゃぞ!」


 プリプリと怒る爺ちゃんを見て、俺は確信した。

 爺ちゃん、ヤケになって嘘ついているなって。


 ただ、爺ちゃんの与太話はなんだかんだで面白い。

 プリプリと怒る顔はムカつくが、聞いてやろう。


「で、魔法使いに会ったってどういうことだ?」

「ちょうど、儂がおぬしくらいだったころじゃ。その日もの、こんな満月が中天に差し掛かった真夜中じゃった」

「なに、そのおとぎ話見たいな出だし。もっと簡潔にしてよ」

「うるさいわい! こういう語り方が一番盛り上がるんじゃぞ! ちょっとは話し手の気分を盛り上げんか! ほれ、子供らしく純粋に!」

「チッ。仕方ないな。……それで、お爺様! それでそれでそんな真夜中でどうやって魔法使いに出会ったんですか!」


 仕方なく、俺は爺ちゃんの言う通りにやってみた。


 すると、爺ちゃんは露骨に顔を顰めた。


「……気持ち悪いのじゃ」

「このクソ爺ッッ!!」

「ちょ、痛いのじゃ!!」


 俺はキレて殴る。


 それから、ひとしきり殴り終わった後、「虐待じゃ! 虐待じゃ!」と騒ぐ爺ちゃんを睨んだ。


「それで、続き」

「仕方ないのぅ」


 山頂を目指して散歩をしながら、爺ちゃんは語りだした。


「あの日、儂は父さん……つまり、お前のひいお爺ちゃんと喧嘩しての。頭を冷やすためにこの山の山頂を目指して今のように散歩しておったんじゃ」

「へぇ」

「それでじゃ。ほれ、この山の頂上は開けておるじゃろう?」

「大きくて太い桜の木しかねぇな」

「そうじゃ。あの桜は特別での。周囲の木々を食い荒らすほどの――」

「そういうのはいいから」

「むぅ。これも大事な話なのじゃが……。そういえば、大事な話といえばの――」


 ただ、そのあとも爺ちゃんの話はブレにぶれ、山姥がタヌキと一緒に逆立ちで村を一周した話をしたころ。

 俺たちは山頂にたどり着いた。


 桜が満開に咲いており、夜空には満月が輝いていた。


「それで山姥は――」

「なぁ、爺ちゃん。話がかなり逸れているんだが。結局、山頂を目指して歩いて、どうやって魔法使いに会ったんだよ?」

「はて、なんの話じゃ?」

「おい。ボケが進んだか? 老人ホームにでも入るか?」

「冗談じゃ、冗談。覚えておるぞ」


 桜の大木に触れながら、爺ちゃんは話し出した。

 俺は立つのが面倒になって桜の根本に寄りかかって、座った。


「その日もこんな風に桜が咲いておっての。ちょうど、お前のように桜の根本に座って、考え事をしておったんじゃ」

「それで?」

「するとじゃ。なんとなしに悲鳴が聞こえて、顔をあげるとな」


 爺ちゃんが朗々と語りだしたのと同時に、女の子の悲鳴が聞こえてきて、俺は顔をふと上げた。

 

「なんと――」

「空から女なの子が!!」

「そうじゃ! 空から箒を手にした美しい女子おなごが――」

「そうじゃねぇよ! 爺ちゃん! 空から女の子が! 女の子が落ちてきてんだ!!」

「え、何言っておるん……って、本当に箒を手にした美しい女子おなごが落ちてきておる! 嘘がまことになってしもうた!! 儂、ウソ800……いや、あれは言ったことが嘘になるやつじゃった。ええっと、ソノウソホントを飲んでな――」

「言っている場合か、爺!」


 阿呆なことを言って慌てる爺を放っておいて、俺は駆けだす。

 女の子は気を失っているのか、身じろぎ一つしない。


 幸いというべきか、全くもって分からないが、女の子の落ち方は普通の落ち方と違って、まるで青白い光を放つ石を手にしているかのように、フワフワと落ちてくる。

 だが、だからといって、受け止めないわけにはいかない。


 俺は山を駆けて、女の子の落下地点にまで急ぐ。


 そして、


「マジで生きてる女の子だ」


 ふわふわと落ちてきた女の子を抱きしめた。目鼻立ちは整っていて、美しい黒髪をもっていた。

 穏やかな寝息を立てて、寝ている。少し揺すってみるが、起きない。


「はぁ、はぁ、はぁ。流石に歳には敵わん」


 遅れて息を切らした爺ちゃんが追い付いた。


「なぁ、爺ちゃん。マジで、これどいうことだ?」

「………………むぅ」


 爺ちゃんは小首を傾げた。

 可愛くないから文句を言いたいが、 爺ちゃんはいざという時には役に立つはずだと思っている。


 ……と思ったのだが、


「そうじゃ。あれじゃよ、あれ! この少女は魔法界のとある国のお姫様なんじゃ! じゃが、特殊な魔法を使える彼女を狙って、世界征服を目論む悪い魔法使いに追われたんじゃよ! そしてお前は少女を守るために悪い魔法使いを倒して、世界を救うんじゃ!」

「おい、爺」

「それで最後にはお前さんはこの少女と結婚する。深夜を散歩をしていた普通の少年が山で出会った魔法使いの少女との冒険譚。しかも、山頂の桜に導かれて! まぁ、この部分は脚色になるかもしれないが、うむ。ワクワクする物語じゃ!」

「……」

「それに儂はいまソノウソホントを飲んでいるからの。これは本当になるんじゃろう。つまり、儂は生きている内にひ孫の顔が見れるということか。楽しみじゃのぅ」

「………………」


 現実逃避するように、わははと笑う爺ちゃん。

 ブチリと俺の堪忍袋の緒が切れた。


「帰る」

「ぬ、ランタンを奪うんではない! あ、ちょ、先行かんで! 儂、さっき走ったせいで腰が!」

「うるせぇ、このあんぽんたん爺! 夜の山でさまよってろ!」

「ちょ、この馬鹿孫!」

「バカなのはアンタだ、爺!」


 俺は爺ちゃんが持っていたランタンを奪い、爺ちゃんの家に直帰した。

 爺ちゃんは日の出とともに家に帰ってきた。








 そして、爺ちゃんの言ったことは全て本当になった。

 ひ孫を抱いて気色悪い顔でにやける爺ちゃんはムカついたので、殴った。







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読んでくださりありがとうございます。

面白い、爺ちゃんいいキャラしているなどと、少しでも楽しんでいただけましたら応援や★、レビューや感想をお願いします。




また、新作『ドワーフの魔術師』を投稿しています。

ドワーフの魔術師が葉っぱと一緒に世界を旅するお話です。ぜひ、読んでいってください。よろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818023213839297177

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