深夜に出会った私

温故知新

深夜に出会った私

「眠れない」



 上司や先輩達にいびられながら今日も無事に残業して仕事を終えた私は、一人暮しをしているアパート帰ってきてご飯やお風呂などを済ませてベッドに入ったのだが......なかなか眠気が来なかった。



「はぁ、明日も上司や先輩方が来る前に出勤して、仕事の準備を済ませないといけないのに」



 そう思えば思うほど、不思議と目が冴えてきた私は、ゆっくりと目を開けて枕元にあったスマホを見た。


 スマホに映し出されたデジタル時計は、深夜3時。所謂、丑三つ時と言われる時間だ。



「はぁぁ、あと3時間したら起床時間なのに......仕方ない、眠気が来るまで近所を散歩をしますか」



 盛大なため息をついた私は、ベッドから抜け出して軽く身支度をすると、まだ冬の冷たさが残る真っ暗な外へと出た。


 私の一人暮しをしている場所は、歩いて職場に行けるほどの場所にあるのだが、その職場自体が田舎にある。


 そのため、夜の9時を過ぎれば辺りはあっという間に真っ暗になる。



「こんな時間に女性の1人歩きは良くないんだけど......そもそも、こんな時間に誰かが出歩いているなんて早々無いし」



 そう1人でごちりながら、スマホの光を懐中電灯代わりにして足元を照らしながら近所を歩いていると、前からヒールを鳴らす音が聞こえてきた。



「おやっ? こんな時間に出歩くなんて......私以外にも随分と物好きな人がいたんだね」



 苦笑いを浮かべた私がそっと彼女の背中を照らすと、前を歩くショートカットの髪をした彼女は、パンツスーツ姿で肩を落としながらとぼとぼと歩いていた。


 あれっ? あのスーツ、私が毎日着てるスーツに似てる。それに、背丈や髪型も何処と無く私に似て......


 そう小首を傾げた瞬間、前を歩いていた彼女が急に立ち止まった。


 「ここって......」



 彼女につられて立ち止まった場所は、職場の近くにある大きな橋の上だった。


 辺りをライトで照らしながらきょろきょろしていると、突然、目の前にいた彼女が通勤用カバンから何かを取り出した。


 あれって......スマホ? しかも、私と同じ機種で同じ色じゃない!?


 見覚えのあるスマホに目を丸くした瞬間、川の方を振り向いた彼女が大きく振りかぶり、持っていたスマホを勢いよく川に投げ捨てた。



「っ!?」



 奇行に走った彼女を目の当たりにした私は、思わず言葉を無くした。

 すると、ようやく私の存在に気づいた彼女が、何を思ったのか私のところに駆け寄ってきた。



「えっ、えっ、ええっ!?」



 何何何!?


 再びの奇行に体を強ばらせた私に、彼女は私の肩を思い切り掴むと、涙に濡らした顔で私に警告した。



「いい? このまま行けば、あなたも絶対こうなるから!!」

「っ!?」



 ようやく見えた彼女の顔......もう1人の私の顔と言葉に、私はその場で絶叫をあげた。

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