深夜の散歩で出くわした『妖怪』のお話。

絢郷水沙

妖怪の正体は何だろう……?

 妖怪が夜に出るのには訳がある。それは人目につきにくいということだ。


 彼らは人間社会にはどうしようもなく相いれない。


 ゆえに人目を忍ぶ。


 それでは今から、私がかつて出会ったとある「妖怪」について話をしよう。



   ◆



 私の趣味は、深夜に散歩することだ。


 深夜の散歩は、朝方の散歩とは違った趣がある。


 人が少ないのはもちろんのこと、夏なんかは特に涼しくて気持ちがよかったりする。


 散歩コースは気分で変えているため、特に決めてはいない。けれども家の近くを回るだけなので、だいたいは同じ。


 暗いので怖いと感じることもある。けどそれは暴漢に襲われるのではといった類の心配で、妖怪がでるのではといった心配はしていない。


 むしろ私は会ってみたいとさえ思っていた。そう、実際に体験するまでは。



 ある日の散歩で私は、向かいから歩いてくる人を見た。


 遠目で見ていたのだが、その人は、大型犬を連れていた。


 始めは、こんな時間に? なんて思ったりもしたけれど、自分も同じなので、特別に変とは思わなかった。


 けれど、ああ、なんて言えばいいのかな。


 別の日、また別の日と、何回かその犬の散歩をする人に出くわしたわけなんだけど、なにかがおかしい。


 犬……なのだろうか?


 どうも違う気がする。


 犬にしては歩き方が変だった。足を怪我しているとは違う、おかしな歩き方……。しかもその犬は毎回、私の方に顔を向けるのだ。


 何かあると思った私は、ある日の散歩で、注意深くみることにした。さり気なさを装って、近づいて、その犬を見ると……。


 私は、はっと息を呑んだ。


 その犬はなんと──だったのだ。


 人間が犬の格好をさせられて、散歩されていたのだ!



 気づくと、私は飛びのいた。


 そして、気づかれてしまった。


 飼い主がふいに立ち止まる。と、そのとき犬が何かをつぶやいた。


 犬となった人間はこう言っていた。



「逃げて」



 それからというものの、私は深夜の散歩を二度としていない。

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