深夜恐怖症

鹿嶋 雲丹

第1話 深夜の散歩は怖いに決まっている

 散歩。

 この言葉の前の、日の高さを表す言葉が何かによってその印象はかなり違ってくる。

 早朝の散歩。

 なんだか清々しく、その後続く一日が良い日になりそうな雰囲気が漂う。

 朝の散歩。

 小さな子供を数人載せられるバギーを押した、保育士さんの姿が浮かぶ。

 実にほのぼのした雰囲気だ。

 昼の散歩。

 お年を召された淑女紳士の皆さんが、にこにこと笑って挨拶を交わす。大事な家族、ワンコさんをお散歩させる人もいる。

 ちなみに私は犬が苦手だ。

 夕方の散歩。

 夏場、暑い盛りには夕方から夜、もしくは早朝に散歩しないと命に関わる。

 夜の散歩。

 冬場、自分の吐く息で掛けたメガネを曇らせて、そのレンズ越しに月や街灯を見ると、七色のプリズムが拝める。今年の冬、それを発見しファンタジスタな気分を味わった。

 そして、深夜の散歩。

 深夜はね!

 人が出歩く時間じゃありません!

 だって、なにと出くわすかわからないんですよ!

 殺人犯にぐさり、とか。

 窃盗犯にぐさり、とか。

 バケモノにぐさり、とか。

 とにかく、なにかに刺される可能性が高いんですよ!

 なので、深夜の散歩は夢の中でと決まっている。

 ところが、この夢の中もなかなか危険領域だ。

 駅の階段を普通に降りてる人の横で、私だけダイビング。

 なぜに私だけこんな急傾斜なんだ、おかしくないかあぁ……

 と思っている内に、ふわりと着地。

 これを二、三回繰り返した。

 かと思うと今日は馬に乗り、なにやらキン○ダムな雰囲気で。

 おっ、これはどうなるんだ?

 とわくわくしていたら、凍った大きな坂道をズルーっと滑ってカーブ。

 なにこれ?

 という内容ばかり。

 まあしかし、深夜に外に散歩に出て、見知らぬなにかに背後から刺される心配はない。

 密かに妖しいものへの憧れを抱きつつも、その出会いのチャンス“深夜の散歩”に挑戦する日は、きっとこないだろう。

 なので、せっせと妄想力を発揮し、私は今日も人外さん出演のお話を書くのだ。

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深夜恐怖症 鹿嶋 雲丹 @uni888

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