さがしもの
ヌリカベ
さがしもの
「
僕は志村にそういった。
「だから何なんだ? それは」
「ジンだよ、ジン。うまいんだぜ」
「それが何だよ。俺はスコッチ党だぞ。アイラしか飲まん」
「だからそのアイラのジンだぞ。お前が最近ガーデニングに目覚めたって聞いたからピッタリのネーミングだって思って持ってきたんだ」
「別に目覚めたわけじゃねえよ。裏の公園が雑草だらけで花粉も飛ぶし虫が来るんだよ。それで草刈りとかしてただけだ」
志村のアパートはすぐ裏が小さな公園になっている。
といっても遊具は壊れたシーソーだけで、あとは地面に埋められたタイヤだけ。
周辺は雑草が生い茂り、植木が勝手に枝を張って伸び放題の雑木林みたいに成っている。
「偉い偉い! そのご褒美に僕がアイラのジンを買ってきてやったんだ。こいつはストレートでやるのが最高でな」
「仲間内でストレートでジンなんて飲むのはお前だけだろう。てめえが飲みたかっただけじゃないか!」
「だからお前のためにトニックも買ってきてやったんだ」
そう言って僕はジンのキャップを開けた。
志村は見向きもしないでボウモアの十二年をロックで飲んでいる。
「四日前の夜だったんだ、気がついたのは」
志村がそう切り出した。
「夜中に、一時頃かなあ。トイレに行きたくて目が覚めたてたまたま外を見ると、裏の公園を女がウロウロと歩いてるんだ。街灯もろくにないあの公園をだぜ」
そんな雑草だらけの公園だ。もちろん遊びに来る子供は殆どおらず、ましてや昼間でも散歩に来る人などいない。
「なんだよそれ。ひょっとして丑三つ参りか? 頭にロウソク立ててなかったか?」
「ふざけんなよ。右手になにか持っていたけれどロウソクなんて立てていない」
「じゃあ、気分転換の散歩か何かだろう」
「それが、一昨日も昨日も同じ頃に来たんだよ、その女。不気味なんだよ」
「だから一人で便所に行けません。どうか今日は泊まってくださいか?」
「うるせえな。もうじき一時だろう。今日も来るんじゃないかと思ってな」
志村にそう言われてカーテンの隙間から覗くと、彼の言う通り右手に何かを持った女が公園をウロウロと散歩? している。
「あれ、ブラックライトだな。何か探してるのかな?」
「ブラックライト? 何だそれ」
「紫外線を出して照らすライトだよ。ほら、クラブとかで明かりが消えてるのに人や色々と光る演出って有るだろう」
「よく分からんな?」
「紫外線を当てると光るものが色々有るんだよ。だから何か探してるんじゃないか?」
「何かってなんだよ」
「ほらブラックライトなんて通販でも、それこそ百均でも簡単に買えるから」
「だから何なんだだよ」
「宝石とかアクセサリーとか。そう言えば体液も光るんだぜ。小便とか精液とか血とかな。お前、使い終わったティッシュとか公園に捨ててないだろうな。光ってるかもしれねえぞ。それから公園でマーキングとか…」
「うるさい! 誰がそんな事するかよ。もう良い! お前さっさと帰れ。その酒も飲まねえから持って帰れ!」
「えー…、旨いのに。じゃあトニックだけでも置いて帰ろうか? ウィスキー割で」
「俺はロック派なんだ! 全部持って帰れ!」
志村を怒らせてしまったようだ。
仕方がないのでトボトボと裏の公園を横切って自宅に帰った。
★★★★★★★★★★★★★★
翌日、志村はブラックライトを買いに行ったようだ。
明け方四時頃、公園の片隅にブラックライトを当てて一心不乱に上から土を振りまいている。
「おまわりさん。あそこだと思います。あそこに埋められてるんだと思いますよ」
数週間前にこの近くで少女が行方不明になった。警察が周辺を探しているがまだ発見されていない。
志村が驚いてこちらを見る。
志村が土を被せていた場所はブラックライトを浴びて青く光っている。
「なあ志村。ルミノール反応って聞いたこと有るだろう。血液はルミノール液をかけると反応して光るんだ。ブラックライトをあてたくらいではそんなにハッキリと光らないらしいよ。でもねキニーネはよく光るんだって。知ってる? トニックウォーターに含まれている成分。僕、昨日帰る時にあちこちにトニックをこぼしちゃってさ」
さがしもの ヌリカベ @nurikabe-yamato
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