懐かしい声【KAC20234・深夜の散歩で起きた出来事】

カイ.智水

在りし日の声

 自律神経が失調し、俺はどんなに睡眠薬を飲んでも午前二時には目が覚める。

 そんなとき、時間つぶしに録画したアニメを編集して時間を潰していたが、ある日から次の眠気が来るまで外へ出歩くことにした。


 外出着に着替えて押し入れからデジタル一眼レフカメラを取り出して家を出る。

 うちの集団住宅のエレベーターは夜になると各階止まりになって面倒なことこのうえない。

 少し時間がかかったものの、なんとか深夜に散歩することとなった。


 とりあえず咲いている花を写真に収めていく。そして足は近くの音楽大学と高等学校へ向いた。深夜なので当然入れはしないが、周りには豊富な花に彩られている。


 ひっそりと静まり返った街中で、ただ自動車が行き交う音だけが聞こえてくる。これだけ走行音に敏感になるのも深夜ならではである。

 今日はさらに足を伸ばして、高等学校にほど近い小学校へと足を向ける。わが家から三分のところにある小学校ではない。自宅から歩いて二十分はかかる隣町の小学校だ。


 そこは俺の母校であった。

 ここの砂場で俺はバク転とバク宙を独学していた。三十を超えた今、すでにバク転とバク宙ができていた生徒時代と同じことはできない。

 ただでさえ自律神経をやられていて、これ以上頭や首に衝撃を与えるわけにもいかないからだ。


 小学生時代は楽しかった。なにもかもが新鮮で驚きに満ちていた。

 あれが二十年が経ち、今もまだ小学校は変わらぬ佇まいを見せている。


 ああ、あそこに音楽室があって、あそこが職員室、そしてあのあたりが俺が学んだ教室のあった場所だ。


 思い出すことすべてが懐かしい。

 感傷に浸っていても、眠気はいっこうにやってこない。

 ただ、そろそろ時間切れとわが家へと戻ろうとしたとき、ふと声が聞こえてきた。


 そちらを見ても誰もいない。

 だが、確かに今、声が聞こえたのだ。

 屈託のない声には聞き覚えがあった。


 在りし日の自分の声だった。



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