ビフォア・サンライズ。サンセット。ミッドナイト。

笹 慎

男女かく語りき

 私はカフェなどで、近くの人々の会話を盗み聞きするのが趣味だ。これは映画館の中に併設されたカフェで、上映時間を待っていた時に隣のテーブルで繰り広げられた男女の会話である。



「これから観る映画の主役のイーサン・ホークかっこいいよね」


 どうやら二人がこれから観る映画は私と同じようだ。ちなみにサイコホラー映画である。


「そうだね。俺は『ガタカ』が好きだな」

「私は『ビフォア・サンライズ』かな」


 ほうほう。二人ともなかなかに趣味が良いではないか。


「『ビフォア・サンライズ』って一番最初のやつだっけ?」

「そうそう。列車の中で女の子ナンパして、二人で途中下車して朝の列車の時間まで深夜のヨーロッパの街を散歩する話」

「あの女優さん可愛かったんだよなぁ。名前なんだっけな」


 男の方がスマートフォンで検索を始める。


「ジュリー・デルピーだわ。もう五十歳過ぎてるんだ。近影だとキレイなおばあちゃんって感じだな」

「五十すぎたくらいで、なんて炎上間違いなしじゃん」

「俺は君みたいになんでも、あったこと思ったことをネットで公開したりしないし」


 危機管理能力高いな。見習いたい。


「でも私、次の『ビフォア・サンセット』観た時にガッカリしちゃったんだよね」

「そう? 俺は半年後に会うって約束は果たされないと思ってたけど」

「そうじゃなくて、イーサン・ホークがさぁ、結婚してたじゃん。そのくせ彼女と再会できた途端に妻捨てる決意するし」


 その話しぶりだと、イーサン・ホーク氏自身の名誉に関わるから、役名で言ってあげて。


「俺はシリーズ最後のが好きだな」

「わかる! 『ビフォア・ミッドナイト』いいよね! あの初々しかった二人が熟年カップルになって酸いも甘いも知った後にたどり着いた深夜のレストランでの会話劇。最高だよね」


「いや俺は難しいことわからんけど、ジュリー・デルピーのおっぱい観れるから最後のが好き」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ビフォア・サンライズ。サンセット。ミッドナイト。 笹 慎 @sasa_makoto_2022

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ