深夜に出会った夏
古朗伍
深夜に出会った夏
自慢じゃないけど、僕は虐められっ子だった。
始まったのは中学二年生の時からで、学年でもオラついている陽キャのグループに目をつけられたのがきっかけだ。
お金をせびられたりすることは無かったが、恥ずかしい写真を取られて、それを盾によくパリシをさせられたり、万引きの片棒を担がされたりした。
しかし、それも中学三年で受験が本格的に始まったら、ナリを潜めた。
奴らも高校はマトモな所に行く必要があるらしく、遊んでる暇はないと言う感じなのだろう。
僕は奴らとは別の高校を受験した。とにかく奴らとは一生会いたくないと言う意図から、全く違う土地の高校を目指したのだ。
両親は、友達もいる家から近い所に通えば? と言ってくれたが、両親の言う友達とはあの陽キャラ共だ。心配をかけたくなくて、友達と僕が言っていたのだ。
僕は、早い内から一人暮らしに挑戦したい、部屋の家賃や生活費はバイトをして自分で何とかする、と両親に強くそう言うと、二人はそれならやってみなさい、と了承してくれた。
そして、受験を終えて見事狙っていた高校に合格。陽キャラの奴らは僕とは二段階ほど上の高校に入学して、更に別の地方へ行くことになったらしいから二度と会うことは無いだろう。
一人暮らしのアパートを決めて、アルバイト先も決めて、その保証人を父と母にお願し、きちんと約束を守る事を証明した。
二人は、家賃はこっちで持つから生活費は自分で稼ぎなさい、と応援してくれた。
入学式の一週間前にはアパートへの引っ越しを終えて、二日前には一度アルバイトの所にも顔を出した。そして、翌日に入学式を控え、緊張して眠れずに散歩がてらコンビニへ行こうとしたところ、
「ん? なんじゃ! おぬし!」
深夜の公園でブランコに乗る空色の髪をしたオッドアイの女の子と出会った。ギザギザの歯なんてリアルで初めて見た。
一つの外灯で全てが照らされる程に小さな公園。
そこのブランコに彼女は座っていた。
夜でもわかる空色の長髪は切るのが面倒なのか前髪が顔を分ける程に伸びている。
Tシャツに女の子と見るには十分な胸が強調され、短パンにサンダルと言う――少し外に出ててくる、と言って飛び出した様な服装だ。
「ん? なんじゃ! おぬし!」
僕の視線に気付き、色の違う瞳が向けられ、深夜にも関わらず、ギザギザの歯からはそれなりの声量が飛んでくる。
「あ、ごめんなさい」
明らかに関わるべきじゃない。僕は早足に去ろうとすると、
「待てい!」
女の子がブランコから叫ぶ。僕は思わず止まる。
「寝付けんくて暇じゃ! 話し相手を頼めるか!?」
彼女の声量は遠慮を知らない様だ。時間帯は深夜で周囲は住宅地な事もあり、これ以上の大声はマズイ。
「わ、わかったから! 声をもう少し落として……夜遅いから」
「それもそうか」
と、女の子はギザギザの歯を見せて笑った。
「わしは、サマー・ラインホルトじゃ」
「あ、
「先に言っておく。この眼や髪色は自前じゃ。コスプレではないぞ!」
この女の子は、サマーさんと言うらしい。顔立ちは日本人なので、外国人とは思わなかった。
「じゃ、じゃあ、その歯も?」
「これは付け歯じゃ! 護身用でのう。スタンガンよりは使える」
サマーさんはどこからかスタンガンを取り出す。色々とツッコミどころはある女の子だけど、最低限の危機感は持って深夜を出歩いているのだと安堵した。
「その喋り方は……誰かの真似?」
「乙女の秘密と言っておこう!」
サマーさんの言葉は一つ一つに力を感じた。なんと言うか、思わず聞き入ってしまうような声色に加えて、絶対的な自信を彷彿とさせる。
ついて行きたいと思わせるカリスマ性を人生の浅い僕でも感じ取れる。
「そ、それで。サマーさんは何で公園に?」
「ようやく話の本題じゃな! わしは――」
と、語りだそうとした瞬間、サマーさんは僕の手を引き、遊具の影に走る。
突発的な彼女の行動に僕は考えるよりもされるがままに行動した。
「暫し、黙っておれ……」
至近距離でそう言われて少しドキッとした。彼女は奇抜な言動に隠れがちだが、よく見ると美少女だ。
「おのれ……公僕め。速度違反でも追って居れば良いものの……」
僕はそっと影から顔を出すと、近くの交番から警察の人が来ていた。
多分、夜中に公園にいる僕たちを注意しに来たのだろう。
「よし。行ったか」
警察の人は公園を一通り見ただけで、すぐに引き上げて言った。僕たちが帰ったと思ったのだろう。
「サマーさん。もう帰った方が良くないかな?」
僕としては無理してこちらの土地に居るので、早々に警察の世話になるのは不本意だ。
「そうじゃな。結局、交換できたのは名前だけじゃったが、ここらに住むのならまた会えよう」
僕は送って行こうとしたがサマーさんはギザっ歯とスタンガンを見せると、無用じゃ、と言って帰って行った。僕はと言うと、
「初めて……女の子と手を握っちゃったなぁ……」
始まる思春期に振り回され始めた。
入学式では、一悶着あった。
なんと、入学生の最優秀者が壇上で挨拶をする事になっていたのだが、当人は寝坊して遅刻したらしい。
とんだ伝説になったものだと、回りがざわめく中、僕は新天地のクラスで少し緊張して席についていた。
「よ、隣だな」
すると、爽やかな雰囲気のイケメンが話しかけてきた。
「俺は
「あ、ぼ、僕は枢木真司」
「よろしくな、枢木」
「よ、よろしく、九条君」
昔のトラウマから、陽キャは苦手だ。サマーさん程に振り切れてくれていれば、逆に接しやすいのだが。
「良介。早速、絡むの止めなよ」
「そんなんじゃねぇよ、サキ」
九条君の知り合いと思われる女の子がやってきた。
「こいつは
西島さんは流れる様に滑り込むと、九条君に肘打ちを決めた。
「ごめんねー、このアホの事はスルーでいいから」
「気を付けろ枢木! この女はそこらのヤクザよりも凶悪――」
と、今度はチョークをかけられる九条君。必死にタップしている。
「改めて、西島彩希よ」
「枢木真司です」
「敬語はいいわよ。クラスメイトでしょ?」
「あ、そうだね」
横で気を失っている九条君が心配だったが、僕のトラウマのような陽キャとは違う様子なので、少し安心した。
「皆、席に着け。HRを始めるぞー」
と、女の先生が入ってきた。
クラスメイトは自分の席にいそいそと戻る。
「箕輪鏡子だ。お前たちの三年間を担当する。よろしくな」
箕輪先生は美人ながらもどこか体育系の様を感じ取れる先生である。
すると、ガラッと教室の扉が開いた。
「すまん! 遅刻した!」
入ってきたのは僕が人生において、絶対に忘れられない女の子だった。
「ん? 自己紹介はまだの様じゃな! ならばわしが一番にやろう!」
箕輪先生も含む全員が唖然とする中、彼女は空色の髪を揺らし、色の違う瞳で僕たちを見るとギザギザの歯を見せて仁王立ちで笑う。
「サマー・ラインホルトじゃ! よろしくのぅ!」
深夜に出会った夏 古朗伍 @furukawa
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