バースデーケーキぐちゃぐちゃ

文月みつか

バースデーケーキぐちゃぐちゃ

 仕事帰りのゾウは、凝り固まった肩をぐるぐる回して、玄関の扉を開けた。と、


 ――パンパンパーン!!


 クラッカーが次々に破裂する。舞い散る紙吹雪と火薬の臭い。


「な、なんだ!?」

「誕生日、おめでとう!!」


 6人のルームメイトたちが声をそろえて言う。ウサギ、ブタ、ゴリラ、ニワトリ、アライグマ、キツネ。パーティー帽をかぶって、誰もが笑顔だ。


 室内は折り紙の輪飾りや風船でにぎやかに飾り付けられ、壁には「Happy Birthday !」と陽気な横断幕が掲げられていた。


 突然のことに驚きながらも、ゾウの心は嬉しさでいっぱいになった。仕事での疲れが吹き飛ぶようだ。


「そうか、今日は僕の誕生日だった。忘れていたよ。ありがとう」


 ルームメイトたちは笑ったり小突き合ったりしながら、サプライズの成功を喜ぶ。

 それから部屋の照明が消され、ロウソクに火を灯したケーキが運ばれてくる。


 暗がりでよく見えないが、何だかやたら高さのあるケーキである。変わったデザインをしているようで、ロウソクがあらゆる方向に向かってこれでもかというくらいたくさん刺さっていた。


 ゾウは大きく息を吸い込み、ふーっと思い切り息を吹きかけた。たくさんあってなかなか消えないので、顔を真っ赤にして何度も鼻で風を送った。


 風圧で何本かのロウソクが吹っ飛んでいったが、なんとかすべての火を消すことができた。


 ひゅーひゅーと歓声が上がり、拍手が沸き起こる。


 ゾウは照れ隠しにパオンと鳴いた。


 再び部屋の明かりが灯される。


 そして異様な光景が目に留まる。


 おめでとう! おめでとう!


 仲間たちが満面の笑みで口々に祝福を告げるが、ゾウの顔には困惑の表情が浮かんでいる。


「えっと、盛り上げてもらっているところ悪いんだけど」


 ゾウはためらいがちに聞く。


「このバースデーケーキ、どうしてこんなにぐちゃぐちゃなの?」


 温かい空気の部屋にピリッと緊張が走る。


 全員が、おもむろに指をさした。


「あいつのせいだ」


 しかしその指先は、おのおの別の人物を示している。


 ウサギはキツネを、ブタはウサギを、ゴリラはブタを、ニワトリはゴリラを、アライグマはニワトリを、キツネはなぜかゾウを指さしていた。



 話はこういうことだった。


 せっかちのウサギが、店で受け取ったケーキを家に運ぶ途中で転んだ。


 少し崩れてしまったケーキをどうごまかすかみんなで相談しているとき、食いしん坊のブタがつまみ食いをした。


 上からデコレーションすればいいんじゃないかということになり、使えそうな食品をテーブルに並べた。そこで怪力のゴリラが力任せにジャムの瓶のふたを開けたら、肘でニワトリの頭を直撃してしまい、ニワトリは吹っ飛んでケーキに頭から突っ込んだ。


 ニワトリはジタバタ暴れ、羽毛が舞い上がった。潔癖症のアライグマが、血迷ってケーキからニワトリと羽を洗い流そうと鍋たっぷりの水をかけた。


 すでに原型をとどめていないケーキに無理やり飾り付けを施してみたものの、雪崩を起こした雪山が噴火してカラフルなソースを噴き出し、それをチョコや飴玉やポテトチップスでせき止めたような、なんだかよくわからない怖ろしげな固まりが出来上がった。


 あきらめムードの中、ずる賢いきつねが妙案を思いついた。ロウソクをたくさん立ててゾウに思い切り吹き消させれば、ケーキはさらなる崩壊を起こしすべてはゾウの責任になるのではないか。


 そんな上手くいくわけあるかいと誰もが思っていたが、どうせすでに引き返せないところまで来ていたので、ありったけのロウソクをケーキ(だったもの)に突きさし、ドキドキしながらゾウの帰宅を待ち構えていたのだった。


 すべてのあらましを聞き終わったとき、ゾウはつぶらな瞳で改めてルームメイトたちを見回し、ゲラゲラと腹を抱えて笑い出した。


「君たちは本当に、最高のチームワークだね。あ、いや僕もか」


 仲間たちはゾウの様子を見てほっとして、自分の失敗を笑うことができた。


 それから、それぞれが準備していたプレゼントを今日の寛大な主役に渡して、誕生日パーティーは和やかに幕を閉じた。


 ただし、ぐちゃぐちゃのバースデーケーキには最後まで誰も手をつけなかった。

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バースデーケーキぐちゃぐちゃ 文月みつか @natsu73

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