千代に睡る星
外並由歌
“muddle”
湖畔がゆらめいて、湧き出すように立ち上った水面が宵闇の中、月に照らし出されていた。端で彼を待っていた土の王は、ようやくかと息を吐きこそするものの喜びの表情を浮かべはしない。それは水の王も同様だった。
こうして会合を迎えるまで三月を要した。土の国と水の国は泥沼の戦況で、話し合いでの解決などはもう民が許さないところまできてしまった。しかしだからこそ今一度言葉を交わすべきだ、と二人の王は思ったのだ。
「水よ、お前の国はどうだ」
「ぐちゃぐちゃ、としか言い様がありませぬ。魚も鯨も死に絶えて肉やら骨やら何かわからないものまでユラユラと、面にも底にも漂う始末。ああ、泥も酷いものですよ」
「嫌味を言うな。こちらもそう変わらん。牛も緑も腐り溶け、最早芽吹きのひとつもない。永い争いとなってしまったな」
みな流して終えば宜しいじゃありませんか。水の王がまた捻くれた軽口を言うが、改めて争いの経過を思い巡り、海を淀む漂流物を思い返して彼は呟いた。「生命に拒まれてしまいましたね」と。
今や重き者は死に絶え、細かな者らによる再生も間に合わぬ。それだけ、土と水の暴挙は儚い子らには耐え難い災害だった。この星にもう新たな命は望めないだろう。
土の王は問うた。それでも平和を望むか、と。
水の王は答えて、うつくしいものの方が好きです、と言った。
二人は朝を待たずに別れた。国に帰った土の王は下弦に地を揺すれと命じ、また水の王はあまねく潮を満たせと命じた。
民が従いそのようにすると空の遥か向こうから一つの星が落ちた。それは烈しい異質な風を巻き起こし、風は空全体を覆う雲になって太陽を遮る。雪が降って大地は凍り、海もまた凍り、二つの国は千代の眠りについた。
混沌には混沌を。永い眠りの後、彼らは再び一から歩み出すことに決めたのだ。
そのとき招かれた星に宿る命が二国を繋ぎ彩る未来はまだ、夢の中である。
千代に睡る星 外並由歌 @yutackt
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