『深川奏ルート』

ここはとある高級ホテルの最上階にあるレストラン。周りに人はおらず、静かな空間が広がっている。私は落ち着かない様子で、キョロキョロと見渡していた。だって、こんな場所来ることなんてないんだもん。



「おい、キョロキョロするな。周りに人はいないとはいえ、一応レストラン内だぞ?」



「だ、だって、奏さん……こんな高級レストランを貸し切りにしちゃうなんて……!聞いてなかったんですもん……!」



彼女の名前は深川奏。私の恋人である。

彼女とは高校の頃に三人に告白されて、その三人の中で、私は奏さんそして、高校を卒業してからも奏さんとの関係は続き、私たちは恋人同士になったのだ。



恋人になった私たちは、それからいろんなことをした。デートを何回もしたし、キスもたくさんした。でも……それ以上には進まなかったけど。きっと、奏さんは私のことを大切に思ってくれてるのだろう。



でも……私は奏さんともっといろんなことをしたい。そう思っているのだ。だから、今日私は勇気を出して、このホテルに来たのだ。



私が落ち着かない様子でいると、奏さんが私の頭をポンッと叩いてきた。

まるで子供扱いをするように……。

ちょっと悔しいけど、撫でられるのも悪くないなと思ってしまう自分がいる。すると、奏さんはクスクスと笑った。

彼女の笑顔が眩しい。私はつい見惚れてしまう。



好きという感情は、やはり厄介なものだ。彼女と話しているだけで、私は嬉しいし、ドキドキする。この笑顔が私だけのものになればいいのに……と思ったこともある。

が、それはそうとして――



「よく奏さん、貸し切り出来ましたよね?奏さん、いつも愚痴ってるんじゃないですか……給料が安いって……」



奏さんの職業は、中学生教師である。教師というのはやりがいはあるらしいが、給料が安い、と愚痴っているのに。



だから、驚いた。貸し切りをする程のお金があるということに。



「あー。うん。そうだよねぇ。私も、驚いたよ」



ケロリ、とそういった奏さん。……あれ?奏さんが用意……したんだよね?と。不安になっていると、



「実はこれ真美が用意したんだよ」



コソコソとそう言った奏さんに私は少し驚いた。



「………え?ま、真美ちゃんが?な、何で……?」



「後、真白も一枚噛んでいるとか……ったく、あいつら。余計な気遣いしやがって」



そうは言っても、笑みを隠せておらず、奏さんは嬉しそうに笑っていた。……とかいう私もそうなんだけど。

すると、奏さんは私に尋ねてきた。



「で。何を頼む?金はあいつらのおごりらしいから。何でも頼んでいいらしいぞ」



「そ、そうなんですか?じゃあ……」



――昔からレストランとかで何かを頼むのが苦手だった。だから、いつも何を食べたらいいかわからなかった。だから、今も正直何を頼めばいいのかわからなかったが……、



「……菜乃花、迷うのなら、私のオススメでいいか?」



奏さんがそう言ってくれるのが私的には嬉しかった。優柔不断な私を見兼ねて、奏さんはそう提案してくれたのだろう。

私は少し頬を赤くしながら、コクリと頷いた。



すると、奏さんは近くにいたウェイターさんを呼び、注文していた。長いカタカナの名前が次々に出てくるものだから、私には何のことだかさっぱりわからなかったけど……



「(とゆうか……こういうところのマナーとか知らないんだけど……どうしよう……)」



ここまで来といて今更、不安になってしまう。と、私が不安がってるのに気がついたのか、奏さんは少し微笑んでから言った。



「……菜乃花、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。貸し切りだから、人もいねーし、マナーなんて気にしなくていい」



「そ、そうですよね!」



私が安堵していると、奏さんは再びクスクスと笑い出した。……今の言葉のどこに笑うところがあったのだろうか。私は不思議に思いながらも、奏さんに尋ねる。



「……な、何で笑ってるんですか?」



「いやさ?私の恋人はかわいいなぁと思って」



「……なっ……!?」



私は思わず、顔を真っ赤にしてしまう。奏さんは意地悪な顔をして笑っている。きっと、私のことをからかっているんだ。



「からかわないでください……!」



そう言っても、彼女は私をからかうのをやめない。――と、そんなやりとりをしていると。

タイミングよく、ウェイターさんが注文の品を運んできた。美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。



「……わ、お、美味しそう……!」



そんな素直な感想を述べつつ、私はスプーンを手に取り、それを一口すくって口に運んだ。……うん! 美味しすぎる。ほっぺが落ちてしまいそうになるくらい美味しい。

私はパクパクとスプーンを口に運んでいたけど、そんな私を見てか奏さんが笑っていた。



「………ふふ」



私は思わず、手を止めた。

すると彼女は言った。

……少し頬を赤くしながら、



「好きだよ。菜乃花」



と、微笑みながらそう言ったのだ。

いつも、好きとは言ってくれるけど。

だけど今日のはいつもとは違う気がする。

……上手く説明は出来ないし、言葉でも言えないけど。

私はそっと自分のスプーンを置いて、ナプキンで口を拭ったあと、それをお皿の上に置いてから、



「わ、私も……好きですよ……」



いつも、好きと言ってくれる奏さんに、たまには私が伝えないとと思って言った。

すると、彼女は目を大きく見開いてから、嬉しそうに微笑んでいた。



「うん、知ってる」



奏さんはそう言いながらも、とても幸せそうな顔をしていた。私はそんな奏さんの顔を見て、思わずドキッとしてしまった。



……きっと私は奏さんのこんな顔が見たくて、告白をしたのかもしれない。

普段のクールな姿も好きだけど、私の前だけではこんなに優しい顔をして笑ってくれるから……。

私もつられて微笑んでしまうのだった。

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君は誰の手に? かんな @hamiya_mamiya

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