番外編
『雪村真白ルート』
高校を卒業して、私たちは結ばれた。真白先輩――ではなく、真白さんは小説家になった。書けばヒットし、ベストセラーになるほどに売れている。
自分の好きなことが世間で認められて、そして売れているというのは凄いことだ。だから誇らしい、と思う。しかし同時に嫉妬もした。私だって小説家を目指した頃あったし、今もある。でも私は売れなかったから。
賞に応募しても、いつも一次選考すら通らない。それでも諦めきれなくて応募し続けていたが、結局受賞することはなかった。その度に悔しくて泣いたものだ。
だから、私はこの道じゃないのかもしれないと何度も思った。もっと別のことをやるべきなんじゃないかって。でもやっぱり小説を書くことが好きで、どうしても辞められなかったのだ。
だから、仕事をしながらも、小説を書き続けるという生活を続けている。最近は、仕事が忙しすぎてそんなこと出来ないけど……
でも、小説を書くのは楽しい。例え、書籍化せずとも、私の書く文章を読んでくれる人がいる。感想を言ってくれる人もいる。それが嬉しくて仕方がないのだ。
真白さんみたく、人気が出れば嬉しいだろうけど……私には無理だと思っている。それは才能の差も勿論あるのだが……
「菜乃花~~」
ギュッと抱きしめられた。ふわっと香る甘い匂い。それに安心する。
私の大好きな人の香りだ。
「もー。疲れたわよぉ。サイン会とか握手会とか大変だったんだからぁ」
そう言いながら、私の胸に顔を埋めてくる。
本当に甘えん坊なのだ。昔から変わらない。私が困っている時に助けてくれたり、慰めてくれる時はすごく大人に見えるのに、いざ自分が疲れたりして余裕がない時になると、こうやって子供みたいになってしまう。
それが可愛く見えるし、ギャップがあっていいなと思った。
まぁ、これに関しては付き合ってから知ったんだけどね。
付き合う前は全然知らなかった。でも今は、こういう一面を見せてくれて嬉しいと思っている。
私は真白さんの頭を撫でると、気持ち良さそうな顔をしていた。可愛い。
「サイン会とか握手会とか小説家に必要のないことだとは思わない?アイドルじゃあるまいし……」
「いいじゃないですか。それだけ真白さんのファンは多いんですから」
「それはそうだし気持ちは当然嬉しいのよ?小説家としたら感想を貰えるなんて光栄なことだし。でも……疲れるものは疲れるのよ!」
そう言いながら、またぎゅーっと抱きついてきた。普段のこの人はクールなのに、たまに見せてくれる素の部分が好き。この顔はきっと私だけの特権なんだ、と思うと特に。
「……頑張ったんですね」
「ええ!頑張ったわ。だからぁ、ご褒美頂戴♡」
砂糖みたいに甘い声で言うと、そのまま私の唇を奪った。ちゅっちゅっと音を鳴らしながらキスしてくる。
あぁもう。可愛すぎる。反則だよ、こんなの……!
「好き……」
トロン、とした瞳で見つめられる。そして、また深く口づけをしてくる。舌を入れられて絡め取られてしまう。
その感触が気持ちよくて頭がクラクラしてきた。
「私も、好き……だよ?」
私がそう言うと、嬉しそうな顔をしてまたキスをしてくる。
……結局、私たちはそのままベッドに倒れ込み、愛し合った。
△▼△▼
目が覚めると、隣からスースーという寝息が聞こえてくる。その寝顔が可愛くて思わず笑みが溢れてしまった。サラサラとした髪を撫でるとくすぐったそうに身を捩った。
「(………ふふふっ)」
可愛いと思うのはおかしいかな?でも、仕方ないよね? いつもは私よりも大人っぽいのに、こういう時になると子供っぽくなる。そのギャップがとても愛しいと感じるのだ。
いつも完璧で完璧な真白さんだけど、私の前だけではこういう姿を見せてくれるのが嬉しい。
「好きだよ………」
女同士というのは偏見の目で見られることが多い。でも、私はそれでもいいと思っている。だって好きなんだもん。真白さん以外なんて考えられないし、考えたくもない。
だから、誰に言われても、意見は覆さない。私は真白さんが好き。大好きなの。
この想いだけは誰にも負けないし、負けたくないと思う。絶対に離したくないと思っている。
だから、ずっと傍にいるよ。いつまでも貴方の傍に……
「好きですよ。真白さん」
またそう言って微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます