第4話 雨降って地固まる

「あ~、疲れたわ~。もぉ~疲れた!」


 僕がそう言って会計台の上でグデッと溶けていると、若い女性店員が両肩に細い指を載せてきた。


「ブッコローさん、肩をお揉みしましょうか?」


 もちろん、そのお言葉に甘えさせていただく。


「あっ、イイっすねぇ。おぉ~、イイじゃないっすか~」


 そのとき、昼食に出ていた店長が戻ってきて、若干白い目で見られた。

 店長はオールバックで目力が半端ないから、見られるだけで威圧感を受けてしまう。


「あ、違うんすよ! ちょっと厄介なオバハン……お客様がいらっしゃって、その対応をしていたら疲れたねって話をしていたところなんすよ。これはその流れっていうか」


 僕のことを白い目で見ていた店長も、接客トラブルらしき言葉を聞いて目の色を変えた。


「何かあったのですか? 詳しくお聞かせください」


「あ、はい。実はかくかくしかじかで……」


 僕は店長に事の顛末てんまつを話して聞かせた。

 正直、店長の注意がそちらに逸れてホッとした。


「なるほど。そのお客様は『(有)隣党探偵事務所』しか知らず、うちをそこと勘違いされたと……」


「そうです、そうです。そういう客ってよくいるんですか?」


「いいえ」


「えぇっ? でも過去に一度くらいは来たことあるんじゃないですか?」


「いえ、一度も」


「えぇっ、一度も!? 嘘でしょ!? マジでぇ!? これはツイてないわ~。よりにもよって僕が一日店長を務めていて、お昼の店番をしているときにあんな厄介客にぶち当たるなんて~」


 そうボヤきつつも、内心ではYouTubeの撮れ高ができてホクホクなのでした。



   ―おわり―

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(有)隣党しか知らないオバハン 令和の凡夫 @ReiwaNoBonpu

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