オオサカ・ダイバーズ
腹音鳴らし
『愚か者たちの挽歌』
あの日の私が、まさにそれだった。
大阪、心斎橋界隈を散策していた夏のこと。
……このたった一文によって、このあと私がダイヴすることになるのが、あの有名な
大阪の道頓堀といえば、プロ野球チーム阪神タイガースファンにはお
以上が、昭和から続く道頓堀ダイヴの伝統作法である。
平成に入ると、人々の心は次第にサッカーへと
ところが当時の私は、そんなプロスポーツ熱とは無縁の世界に生きていた。運動は好きだったが、あくまでもプレイヤーとしてのスポーツ好きであったのだ。そして私は学生の身でありながら、金策に悩む日々を
とはいえ、金はなくとも腹は減る。喉も乾く。
心斎橋付近での古本屋調査を終えた私は、迫りくる夕暮れの気配に誘われて、悪友とともに食事処を探していた。
しかし、道頓堀界隈にひしめく煌びやかな飲食店は、貧乏学生にはいかにも敷居の高い別世界であった。ゆえに私と悪友は、入り組んだ繁華街の奥へ奥へと切り込み、ついに怪しげな激安居酒屋でいくつかのツマミを頼んだのち、当時ようやく吞めるようになった
愚かな私達は、たった一杯の生中で、Vシネマに登場する三下ヤクザのようにその場の雰囲気に酔っていた。古本のせどり事業が壊滅して新たな収入源を欲していた私達は、アルバイトをすればいいだけの話なのに、これから先いかにして生き残っていくべきかというアホ丸出しの話題で大いに盛り上がった。
さて、大衆酒場というものは、お上品なカフェや料亭などとは違い、仕切りや広々とした空間確保とは縁遠い。この日、我々が乗り込んだ激安居酒屋も、相席上等と言わんばかりの混雑した店であった。まさに、袖触れ合うも多少の縁である。私と悪友はたまたまその場に居合わせた赤の他人とすっかり
……が、これがよくなかった。
アルコールの魔力に屈した私と悪友の軟弱な精神は、途端に自身の財布の
そして気が付くと、私達はいつのまにか
おそらくは、前述した何らかのスポーツイベントがあったのに違いない。
だが、その瞬間の私と悪友は、自分が一体なぜそこにいるのか、また何が楽しいのかさえ理解できていなかった。それもそのはず、アルコールに侵された私達の脳みそは、もともと大した性能でもなかったのに、大幅なスペックダウンに
我々がペンギンの群れのように誰が最初に道頓堀へ飛び込むのかを
私と悪友はわけもわからぬまま笑い転げていたのだが、次の瞬間、ヒートアップした人だかりに胴上げされ、二人同時に道頓堀へ投げ込まれた。
死ぬかと思った。
当時の道頓堀の水質は、この世のすべての
急激に正気を取り戻した私と悪友は、命からがら乱痴気騒ぎから逃げ出すと、近くにあった別の友人宅へ上がり込み、そのまま三日間寝込んでしまった。
金儲けを
……以上が、私達がそろってなりたくもない『道頓堀サバイバー』になってしまった経緯である。
余談だが、2000年代に突入したのち、道頓堀は市政や地域の清掃活動によって、大幅にその水質を改善させている。ボラや鯉などの魚類も目撃されており、鮎が生息できるほどのレベルになっているそうだ。
終
オオサカ・ダイバーズ 腹音鳴らし @Yumewokakeru
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