第4話

 7日後、またホットさんがやって来る。


「なんか、お久しぶりです。どうしたんですか?今日はまた『トリ』の収録ですか?」


「ねえ、ブッコロー、ボス倒す気ある?」


「いきなり本題ですね。質問と答えが全然違ってるし。

 そりゃありますよ。そう見えませんか?」


「見えません。」


 ブッコローは布団にゴロ寝して、ジュースを飲みながらDVDを見ている。


「どう見てもヤル気無しの塊じゃないですか。」

 ホットさんは頭に手を当てて、呆れ返ったようにはーっと深い溜息をつく。


「今日が最終日ですよ?今日過ぎたら、ブッコローは正式にあの世です。」


「え⁈ちょっとー、ホットさんこの前そんな事言ってませんでしたよね?

 今日が最後って…ちょっと急すぎじゃないですか?」


「いやー、俗世間では一般的にそんなもんでしょ?ブッコローの年代なら言わなくても。」


「いやいや、だって異世界の設定なんて人それぞれでしょ?」


「あーそうですか…ですよね、すみませんでした。じゃあ今言いましたので、どうぞ、巻きで。

 ちなみに、目星はついてるんですか?」


「ええ、まあ。

 でもさー、結構この生活快適で気に入ってたんだけどなー。もう終わりかぁ。

 ま、丁度いい頃ではあるんですけどね。」


「どっちに転んでももうこの世界とはサヨナラです。

 ちなみに、本はあと何枚残ってるんですか?」


「あと2枚ですよ。」


「え⁈たったの2枚ですか?武器は?攻撃の準備してあるんですか?」


「ご心配なくー。

 ホットさん、せっかくなので乾杯しませんか?」


 ブッコローは紙に『ワイン2杯』と『01281』と書いた。


「えー?ワイン?もうあと1枚しか残りませんよ!大丈夫ですか?」


 ブッコローは両羽を振って、まあまあという仕草をする。

 そして出てきたワイングラスをホットさんに渡す。


「カンパーイ!」

 ブッコローはワインを一気に飲み干した。


「本当はもう諦めて、最後の乾杯というところですか?」


「ボクね、こういう勝負にはめっぽう強いんですよ。

 そして仮にも有隣堂ですよ?出版社です。

 この手の手法もすぐ予想が出来ました。

 まず、ホットさんはこの前“ラスボスを倒せ”と言いました。このは、複数のボスがいるうちの、ラストの大ボスという意味だと取らせたいんでしょうが、違います。という事です。

 次には誰か?

 物語的には、1番怪しいのが『トリ』次はホットさん、あなたです。その次がザキさんで、その次辺りがまだ出てきてないPでしょうか?

 でも、全部違います。

 “ボス”は“BOSS”ですよね。“魔王”じゃないところに引っかかりました。

 そして最後に“倒す”。

 武器はこの本です。語呂合わせで倒し方を探しました。

 いろいろ試しましてね、何しろ49枚を使い切らないといけませんからね。

 そこで分かったんですけど“B”の語呂合わせ数字は『8』でいけたんです。本来なら『13』をくっつけるところなんですが、この場合は『8』なんです。

 どうですか?この推理。」


「ブッコロー、意外にシリアスな話方もするんですね。」


「そりゃぁ、人生かかってますからねー。」


「書き直しは出来ませんよ。

 ファイナルアンサー?」


「あれ?ホットさん、結構古いの知ってますね?

 ファイナルアンサー!」


 ブッコローは本の最後のページに

『ボス 討伐』と『2208 1082』と書く。


「なぜ『2208』ですか?」

「BOSSをひっくり返してるんですよ。だからBは『13』ではなく『8』じゃないといけない。

 ちなみに、“倒す”の語呂合わせで合うのが無かったから、類語で『討伐』。“BOSS”をひっくり返すだけでもいいような気もするけど、チャンスは1回なので念の為。」


「では、どちらになるか…。

 正解だといいですね。またー…」


 ホットさんがそう言ったところで、本の最後のページがクルクルと渦巻き出し、シャボン玉を巻き込んで大きな唸りとなった。



△▼△▼△



「……ロー、…ッコロー、ブッコロー!」

 ユサユサと体を揺さぶられ、ブッコローは目を覚ました。


「…ここは?

 あれ?トゥインクルさん?何で?」


 トゥインクルさんはホッとした顔でブッコローを覗き込む。

「さっき、お酒をいっぱい一気飲みしたじゃないですか?あれでブッコロー寝ちゃって、いくらゆすっても起きなかったから、皆さん帰っちゃったんですよ。

 いつか起きるかなーって待ってたけど全然起きないし。でももう閉店なので。

 良かったー起きてくれて。」


「いやー…ごめんなさい!あれー?ボク…。

 うわー良かったー!戻ってこれたんだ!いやー、本当良かった!」

 ブッコローはトゥインクルさんの両手を握ってブンブンと力強く振った。


 トゥインクルさんはブッコローがオーバーリアクションしてるので、ハテ?という感じだが、されるがままに握手に付き合う。


「で、お時間は大丈夫なんですか?」


 ブッコローはトゥインクルさんの言葉に、ふと時計を見て我に返って、バタバタと慌てて飛んで帰って行った。


「やっべ、嫁さんにブッ殺されるー!!」



**おわり**

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ブッコローは元の世界へ戻れるか ニ光 美徳 @minori_tmaf

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