魔女リルフィアはぐちゃぐちゃが気になる

友斗さと

ぐちゃぐちゃ

「ねえ!ぐちゃぐちゃしようよ」

「いいわね。私もやりたかったの」

「あれ、ハマるよね」

「わかる〜」


若い少女達が楽しげにそう話して、魔女・リルフィアの側を通り過ぎていく。

 ぐちゃぐちゃしたくてたまらないのだろう。

 心なしか小走りになっている。

 そんな少女たちを見送りながら、リルフィアは首を傾げた。


「ぐちゃぐちゃ?」


最近の若い子たちの使う言葉にはどうにも疎い。なんせ百年以上生きている魔女なのだ。


ーー確か三十年ほど前にめちゃめちゃするのが流行ったなあ。似たようなものかな。


流行は周期的に巡ってくると言う。きっとめちゃくちゃに似たものだろう。リルフィアはそう思った。


 しかしその正体は気になる事に変わりはない。

 リルフィアはこっそりと少女たちの後を追うのであった。


 三十年前流行っためちゃめちゃはゲームだった。

 五人ずつのチーム戦でフィールド内で魔道具を使って戦う。攻撃を受けた者は魔法でフィールド外に出される。そうして最後まで残っていたチームが勝ちとなる。魔法を使えない一般人も魔道具を使って魔法が使えるようになるので、当時はかなり人気が出た。

 確かキャッチフレーズが「めちゃめちゃやろうぜ!」だった。そこから通称めちゃめちゃと呼ばれていた。今となっては正式名称は思い出せない。

 だが魔道具が世間一般に浸透してからというもの、めちゃめちゃはコアなゲームファン以外はやらなくなっていった。

 常に魔法が使えるリルフィアにとってはそこまで魅力を感じるものではなかったが。


ーー流行の周期がくるたび、年取ったな、て感じるのよね。心なしか腰が痛い気がする。


リルフィアは少し黄昏た。見た目があまり老けないので分からないが、前より疲れやすくなったな、とかはよく感じる。自覚すると少し虚しくなるので、気のせいという事にしている。


「うわ!やっぱり凄い並んでるね」

「本当だ」


少女たちの残念そうな声が聞こえてきた。行列の先を見ると、そこには最近人気の高いスイーツ店があった。

 店から出てきた少女たちは皆、少し大きめのカップを持っている。アイスクリームとホイップクリーム、それとフルーツやら何やら色々入っている。どうやらそれをかき混ぜて食べるようである。

 ぐちゃぐちゃにして食べるスイーツだから「ぐちゃぐちゃ」というわけだ。


 どうやらめちゃめちゃとは何の関係も無かったようである。


「まだ流行の周期が来てない……てことは私はまだまだ若いのかな」


ふふん、と上機嫌に笑う。

リルフィアはスキップしながら帰路についたのであった。


腰の痛みはないが、ぐちゃぐちゃを食べる気にはならない。


だって胃もたれしそうだから。



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魔女リルフィアはぐちゃぐちゃが気になる 友斗さと @tomotosato

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