散らかった部屋

夕奈木 静月

第1話

「部屋の中がぐちゃぐちゃ……。いい加減ちゃんとしなよ? もうすぐ高校生なんだよ、直樹なおき。今すぐやるの。いい?」


 姉貴が俺の部屋に入るなりお手上げポーズをしてあきれ声をあげた。


「え!? 今? ちょっと手が離せないんだけど」


 こんなのいつかまとめて片づければいいんだよ。うるさいなあ……。


「お父さんだって今月末帰ってくるんだから、しっかりしたところを見せて安心させてあげなよ?」


 ウチは理由わけあって父親だけの片親家庭だ。姉貴が意識してデキる子どもを演じるのはいいが、俺が部屋の掃除をするのは親父が帰る直前でいいだろうに。


「りょーかい。それまでにはちゃんとやるから」


 片づけたところで、またすぐ散らかるんだから。あとでいいだろ、あとで。


「ダメ! 今、できるところまで片づけなさい」


 せっかく集中して本読んでたのに……。

 午後六時を回ると隣の家の小学生がピアノの練習始めるんだよな。


「聞いてるの!?」


「へっ!?」


「あたしはあんたのためを思って……」


「はいはい、分かったから」


 姉貴を部屋の外に押しやる。


「はあ……なんであんなにうるさいのかねえ……」


 ようやく一人になれた。文庫本を片手に再び物語の世界に沈んでいく。




 翌日の夕方。学校から帰ると姉貴が大騒ぎしていた。


「直樹、大変だよ! 空き巣に入られたの……!」


 涙目で通帳やカードが盗まれたことを伝えてくる。


「ええっ!?」


 俺は慌てて自室に確認に向かった。


 部屋の中に踏み荒らされた形跡はない。いや、もともと踏み荒らされたような光景が広がっていたから、侵入されたのかどうか、よく分からなかった。


「よかった! 未使用のitunesカード、通帳にカードも全部無事だ」


「……」


 姉貴が実に悔しそうな表情をしている。




 月末、父親が出張から帰宅した。


「おい、なんだ! 家じゅうぐちゃぐちゃじゃないか!? 一体何があったんだ!?」


「ああ、空き巣対策よ」


 姉貴はドヤ顔で言った。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

散らかった部屋 夕奈木 静月 @s-yu-nagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説