モスキートエフェクト
那智 風太郎
初夏。
鯉のぼりの季節だというのに私の二の腕に蚊がとまった。
反射的にパチンと叩いた。
すると蚊はぐちゃっと潰れて死んだ。
叩いたときに勢い余ってテーブルに置いてあった鉢植えの観葉植物を倒してしまった。
倒れた観葉植物はそばにあったプラズマテレビに寄りかかってしまった。
超薄型のプラズマテレビはその重さに耐えられず、真後ろに倒れてしまった。
すると複雑に絡み合っていたいくつかの配線が引っ張られて、そのうちの一本につながっていた電気ポットがひっくり返って蓋を開けた。
当然、熱湯が流れ出た。
熱湯は近くにいた猫のマロンの尻尾に飛び散り、驚いたマロンは猛烈に走ってカーテンにしがみついた。
カーテンはレールから引き剥がされ、その真下のローチェストに被さった。
ローチェストにはまん丸の猫目石が置いてあり、それが転がり落ちてキッチンに向かう。
ボーリングの球よろしく猫目石はごろごろと転がり、やがてキッチンの床に置きっぱなしにしていたカセットコンロにぶつかった。
するとどういう具合かカセットコンロが点火した。
カセットコンロの上には新聞紙が載っていて、それが瞬時にメラメラと炎を上げた。
煙が上がり、天井の火災報知器が反応してけたたましく警報が鳴り始めた。
私はあわててキッチンに飛び込み、消火器を探すが見当たらない。
仕方がないのでとりあえず椅子に掛けていたワイシャツで無闇に火元を叩いた。すると火の粉が舞い上がり、天井に引火した。
火は瞬く間に広がり、私は恐れ慄いて玄関ドアに猪突した。
けれどそこで煙を吸い込み、敢えなく意識を失った。
後のことは知らない。
今日、午後三時ごろ、住宅街のアパートで火事がありました。
約一時間後に火は消し止められましたが、アパートは全焼し、焼け落ちた一階部分に住民のものと思われる遺体が発見されました。
遺体は損壊が酷く、警察は身元の特定と出火原因について……。
モスキートエフェクト 那智 風太郎 @edage1999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます