Gordian knot~オグリキャップ幻想~【KAC20233『ぐちゃぐちゃ』】
石束
オグリキャップ幻想
1990年12月23日。第35回有馬記念。その発走が近づいている。
有馬記念はファンの投票によって出走が決まる「お祭」。その「一位」だったオグリキャップは間違いなくどの馬よりも「走ってほしい」と望まれた馬だった。
しかし、馬券の人気は四番人気。その勝利をすべての人が信じているわけではなかった。
競馬というスポーツは、過去のデータを基に勝者を予想する事で、観客がレースに参加する営みだ。
競走馬の個性とコンディション。調教師を指揮官とするそれぞれの厩舎の、その競走馬だけの計画と戦術。
前走の結果、前々走の結果、レース場の相性、2500メートルという距離との相性、当日の天候、一緒に走る相手、その性格、得意に不得意、その馬に騎乗する騎手にも強さがあれば弱みがあり。得手があれば不得手もある。
そして、血統という不可思議な縁。
さらに、誰にも予想できず、コントロールできない「レースの展開」という要素。
年末の中山競馬場で争われる有馬記念は、まさに一年の集大成。この時期に一番強いと推された馬が、その中の一番を決めるべく集結するレース。
どの陣営も他陣営の戦力をにらみながら、一戦必勝の策を抱いてくる。
そんな中、天才武豊を鞍上に迎えてなお「四番人気」という現状が、何よりもオグリキャップという、かつては「怪物」と呼ばれた競走馬の現状を、物語っていた。
だが。
複雑な要素が「ぐちゃぐちゃ」に絡まりあう、この競馬という営みのすべてを見切ることができるなら、たしかに、レースの結果はおのずと知れるだろうが。
そんなもの、誰にだって不可能なのだ。
そして。
それが何人にとっても不可能であるからこそ、ただ一つの栄光に向かって、『かれら』は走るのだ。
叫びと、願いと、諦観と、祈り。
混沌のるつぼと化した中山競馬場で、一〇〇年の後にも語り継がれるであろう「おとぎ話」の最終幕が始まろうとしていた。
Gordian knot~オグリキャップ幻想~【KAC20233『ぐちゃぐちゃ』】 石束 @ishizuka-yugo
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