ノイズキャンセリンググラス

TiLA

(⌐■‭◡‬■)⭐︎

 鹿の街の商店街

 友達に教えてもらった

 そのシャッター街通りで

 とある眼鏡を買いました


 ノイズキャンセリンググラス


 なんと自分が見たくないものが

 視界から消えてしまう代物です


 さっそくかけてみましょう


 あら不思議


 不快なものが全て見えなくなりました


 嫌なニュース

 嫌いな政党のポスター

 嫌いな広告


 試しに昔撮ったスマホの写真を見てみます

 削除する勇気のなかった写真を……


 隣に映ってたはずのある人の姿は

 もう見えませんでした


 これはいい( ・∀・)=b


 もう手放せませんよ

 ぼくはこの眼鏡がすっかり

 気に入ってしまったのでした


『ねぇ!』


 何か聞こえた気がするけど気にしません

 きっと空耳でしょう

 ぼくはずっとこの眼鏡を

 かけていることにしました


 でもそれからしばらくして

 なんだか変だなと気づき始めました


 なんだか目に見えるものが

 日に日に減っていくような気がするのです

 どうしてだろう?


 ぼくは眼鏡を買った雑貨屋さんに行きました

 購入した商品で困ったことがあったら

 必ず来るように言われていたからです


「それは1:7:2の法則だね」


 雑貨屋の店長さんは言いました


「いいかい、不快なもの1割、どうでもいいもの7割、

 好ましいもの2割、世界はその法則で成り立っている。

 でもそこから不快なもの1割を除くと

 今度はその残った9割にまた1:7:2の法則が

 適用されてしまうんだよ」


 何ということでしょう!

 そうするとどんどんぼくの視界からは

 見えるものが減っていって

 やがて全て見えなくなってしまうのでしょうか

 いつか好ましいと思っていたものまで……


『ねぇ!』


 また何か声が聞こえた気がしました

 どうせまた空耳でしょう

 すると

 帰りを歩くぼくの腕を誰かがガッと掴みます


『ちょっと! 財布落としてるわよ! 

 さすがにこれは見過ごせないわ!』


 その声に振り向けば、ぼくの財布が宙を

 ぶらぶらしているのが見えました


 ぼくは眼鏡を外してみます

 ギャル風のちょっとぼくが苦手とするような

 強気そうな女の子でした


「これアンタの財布! いま落っことしたわよ!

 あと、このハンカチも以前にアンタが前に

 ここで落としたもんでしょ?」


 見るとそのギャルが持っていたのは

 振られた彼女から

 昔々にプレゼントされたハンカチでした


 ―― 失くしたことも気づかなかった


「あ……ありがとう、でもどうして?」


「べ、べつに⁉︎ わたしは隣のたこ焼き屋で

 バイトしてて、以前もアンタが落としたのを

 たまたま見たからであって、け、けして、

 アンタみたいのがタイプだから見惚れてたって

 わけじゃないんだからね!」


 そういう彼女の耳はほんのり赤らんでいました


「あ、ありがとう……。じゃあ、せっかくだし

 一舟頂いていこうかな?」


 そう言ってぼくはノイズキャンセリンググラスを

 そこにあったごみ箱にポイっと捨てました


「あら、アンタ? 目が悪いんじゃないの?」


 それを見た彼女が尋ねました


「伊達メガネだよ」


 そう返事したぼく


 もう色眼鏡をかけて見るのはやめようと思いました


         ―おわり―





本作品はいつも素敵な作品を読ませてくださる@ramia294さんの作品、作風のオマージュになります。

(本家はこちら)

https://kakuyomu.jp/users/ramia294

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