口実に変わる
かみさん
口実に変わる
「ちょっと待って!?」
「問答無用!」
必死な制止も虚しく開け放たれる玄関。
そこからズカズカと入り込んでいき、先輩は廊下の先、リビングへ続く扉を開けた。
「うわぁ……」
「だから待ってって言ったのに……」
唖然としている先輩の後ろで、私は頭を抱えてしまう。
そもそも、待ち合わせの時間よりも早く来たのは彼女の方だ。時間通りに来てくれれば片付けきれたかもしれないのに……。
「ちょ!? 何してるの!?」
引かれる……そう思った矢先。
先輩はぐちゃぐちゃの私の家の奥に進んでいって。
「え? 何って、片付けるのよ?」
積みあがった本や服。さらには放置してしまっていたコンビニの袋の山に手を突っ込んだ。
「ほら! 手伝って!」
「ああ!? ほんとに待って!」
下着まで見られちゃう!
そう危惧した私は大急ぎで彼女の元へ。
「この紅茶は?」
「三日前のやつです……」
「おっけ、捨てるね。じゃあこの服は?」
「それはちゃんと洗ってます!」
「はいはい、じゃあこのし——」
「ちょ!? それは私が片付けますから!」
「ええ? いいじゃん女同士だし」
「恥ずかしいですって!」
傍から見れば楽しんでいるのかもしれない。
しかし、私からすれば大変の一言に尽きた。
だって、ズカズカと私の恥ずかしいところを目に収めていくのだもの……。
「あと少しですから残りは私がやります!」
「別にいいのに……」
声を大きくした私に、彼女は不満そうに唇を尖らせる。
そんな可愛らしい姿を目に収めながらも、私はこれ以上の痴態を見られない様に片づけを再開させた。
それから、一時間経って。
「つ、疲れた……」
「だから言ったじゃん、私が手伝った方がいいって」
「だって……」
ぐったりとした私の姿を見て、先輩はケラケラと笑う。
その笑顔が可愛らしくて。
「こんなのもいいかも……」
「ん? 何か言った?」
「ううん、何も」
また汚したらまた来てくれるかな?
いや、これは言えないかな。
口実に変わる かみさん @koh-6486
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