「あの日」を見て見ぬ振りをする君へ

いずも

第1話

 2011年3月11日14時46分、私は会社の事務所にいた。

 関西は震度3の揺れだった。歩けなくもないが、立ち止まると立っているのが難しい程度の横揺れが1分ほど続いた。机の下に潜ったり避難経路を確保できるような人はいざという時助かるのだろうと、個々の危機意識の差を感じた。

 惨状が明らかになり、日本中を陰鬱な空気が支配しても私には画面の向こう側の出来事に思えた。架空の出来事で、全部フィクション。行ったこともないけど東北に行けば何事もなかった世界がある、と。

 それは12年経った今でも変わらず、むしろ年々意識は薄れていく。申し訳ないと思う気持ちと、しかし別の感情も沸いてくる。


 関西の災害といえば阪神淡路大震災がまず浮かぶだろう。幼かった私は怖くて布団を被っていたことだけ覚えている。だが被災地からは離れており、生活する上でこれといった被害はなかった。

 だから「阪神の時は大変でしたね」などと言われてもピンとこない。経験していないからではなく、経験した上で被災者ではないからその同情を素直に受け取れない。


 私にとっての大災害は平成16年台風第23号だった。と言っても大半の人は忘れているかそんなのもあったね、という反応だろう。それが正常だと思う。当事者以外にとっては対岸の火事で、生活に影響を与えていない。

 あの台風で自宅周辺は三日ほど水が引かず孤立状態、学校は一週間休校。祖父の家はまるまる一階が浸水。台風が原因で祖父は肺炎になり亡くなった。これは私だけでなく、あの時町にいたほとんどの人間が体験したことだ。

 何も知らない人から「大変だったんだねぇ」と言われても「何も知らないくせに」と内心思う。彼らにとってそれはフィクションだ。


 だから私は12年前に関して何も言わないし、何も言えない。防衛策であり自分への戒めでもある。フィクションだった奴の言葉など所詮フィクションだ。


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