ぐちゃぐちゃな家が嫌いだった

江崎美彩

第1話

 物に溢れた実家が大嫌いだった。

 早く家を出たいと願い続ける日々はまるで澱が溜まっていくような息苦しさとの戦いだった。


 剥げてキャラクターが分からなくなった安っぽいプラスチックの食器は棚から溢れて、UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみは埃を被り出窓を塞ぐように山になっている。押入れの中は成長してサイズが合わなくなって着ることがない服たちが地層を成し、普段着る服は部屋に渡した突っ張り棒に取り込んだまま、カーテン売り場の見本のようにハンガーがぶら下がっていた。


 就職して一人暮らしを始める時に目指したのはミニマリストというやつだ。

 不要なものは持たない。一つ物を買うときは一つ捨てる。ナチュラルカラーで統一された厳選して買ったシンプルな家具だけが置かれている様は、まさに理想を実現した部屋だった。


 それがどうだ。こんな短い期間でだ。


 原色とパステルカラーに溢れた部屋を見渡すと、絶対に買うもんかと思っていたキャラクターと目が合った。その正義の瞳は、ごちゃごちゃな家の中でいたる所に横たわり、ぶら下がり、放り投げられても、なお真っ直ぐにキミを見守ってくれている。


 片づけなさい。なんて言いながら、キミが片づけきれないほどのおもちゃを買ったくせに。


 一つ物を買ったら一つ捨てるなんて当たり前にしていたことが、今はできない。


 キミが家内に住むようになってもしばらくのうちはキミのために少しでもいい物を天然素材のベビー用品を厳選していて、ミニマリストの部屋にもマッチしていたはずだ。


 なのに今はキミが喜ぶかもと思えば口コミも最安値も調べずに衝動的に手に取ってレジに並んでいる。

 物が増えるなら減らせばいいのに全てにキミとの思い出があり、紙屑一つでも宝物だ。


 そうか。こうして物に溢れる家が出来上がるのか。


 近いうちにキミを連れて実家に顔を出そうかな。


 大嫌いだった実家が少しだけ愛しくなった。

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ぐちゃぐちゃな家が嫌いだった 江崎美彩 @misa-esaki

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