鑑識のお仕事

八万

第1話 ぐちゃぐちゃ

「こりゃ酷い……どうしたらこんなぐちゃぐちゃになるんだよ……」


 俺はあまりの凄惨な現場にさっき新宿駅近くで食べたチャンポンが喉元まで這い上がってきた。

 その被害者はまるで大型トラックに轢かれた後、さらに巨大なハンマーで何度も何度も叩き付けられたかのように、肉片が潰され辺り一面を血で染めていた。現場は路地裏で、深夜ということもあり煌々こうこうとライトアップされている。


 こんな死体現場は鑑識歴三十余年の俺も見たことが無い。

 後輩の明石も当然未体験のことで顔面蒼白になって口元を押さえていた。さっき俺が奢ってやったチャンポンが上がってきたんだろう。ついでに半チャーハンと餃子も頼んでたから腹一杯だろうな。吐くんじゃないぞ、奢り損になるからな。


「せ、せん、うぷっ、せん、うぷっ……ゴクリ、先輩これは、いったい……」


 よく我慢したな、将来楽しみな後輩だ。


「さあな、もしかしたら魔物にでもられたのかもな」


 俺もどうやって殺されたのかさっぱり分からんからお道化どけてみた。


「えっ!? 先輩冗談はよして下さいよ! 魔物なんている訳ないじゃないですかー。それに此処都会のど真ん中ですよ? ハハ……」

「……お、お前! 後ろ! 足元に何かいるぞ!?」


 俺は後輩の足元を指差して叫んでいた。


「ひっ!!! ななな、何だこの黒いヤツは!? や、やめろ! 離せ! せ、先輩! た、助けて下さいっ!!」

「……くっ、くっくっく、お前、何やってんだ? それお前の影だぞ?」


 ライトアップされた現場で自分の影に驚くとはまだまだひよっこだな。

 俺は明石が異世界モノが好きでよく読んでいるのを知っていた。そして明石が勇者に憧れているのも。


「あ、あ、あ、せ、せ、せ、先輩、う、う、後ろ……後ろ……」

「ん? どうした? 仕返しか? 俺がそんな手に引っ掛かる訳ないだろう?」


 そんな時、俺の前に巨大な影がのっそりと出現した。

 俺はゆっくりと振り向い……






 ぐちゃ

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鑑識のお仕事 八万 @itou999

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