橘後輩
研究のため、しずかとしょかんで地方の新聞記事を集めていた。
和歌山の地方版の小さな写真付きの記事、その記事を見つけたのは偶然か、それと何か見えない力でも働いたのか、何にしても奇跡のような確率に違いなかった。
鷲羽真琴。
別れてからもう十年以上になる、僕の先輩。
先輩はどうやら地域の図書館に気まぐれに現れては、手品を見せたり子ども達と遊んだりしているらしい。図書館員の方によると、名前も連絡先も知らないとのことで、よくもまあそんな素性も知れない怪しい男に子ども達の相手をさせているものだと思った。
先輩が現れるのは曜日も時間帯もランダムで、何回か訪れたか全て徒労に終わった。奈良と和歌山までの交通費もバカにならないので、少し迷惑かとは思ったが図書館員の方に協力してもらうことにした。音信不通になって十年以上経つ先輩で、ずっと会いたかったと伝えると、図書館員さんは「手品さんが現れたらご連絡いたしますね」と快く了承してくれた。
「お久しぶりです、先輩」
一瞬だけ驚いた顔を見せた先輩は、あの時と全く変わらない口調で答えた。
「ああ、久しぶりだな、橘後輩」
「それにしても、よく私を見つけたな。一体どうやったのだ?」
「まあ、ちょっと特殊なルートを使いまして」
しずかとしょかんのことを話そうかとも思ったけど、満月さんの許可も取っていないので今は止めにした。あんなファンタジー空間の存在を知ったら先輩は一体どんなリアクションを取るのだろうか。
「ああ、そうだ。白鳥さんにも連絡しないと」
「白鳥後輩か。彼女とは今でも仲良くやっているのかね?」
「いえ、全然連絡は取ってないんですけど。成人式で一度会ったきり」
「そうか。でも連絡先は知っていると」
「はい、白鳥さん、探偵をやっているんです。ほら、ホームページだってここに」
僕はスマホで「白鳥探偵事務所」と検索し、先輩に画面を見せる。
「黒魔導師は辞めたのか?」
「今は白魔導師兼探偵だそうです」
「そうか、白鳥後輩は探偵で、白魔導師か……」
先輩が目を細めて懐かしそうに笑う。
「探偵を名乗っている割に私を見つけられなかったではないか。むしろ橘後輩の方が探偵の才能があるのではないか?」
数日後、満月さんとしずかとしょかんにて話した。
先輩をしずかとしょかんに招待しようと思ったのだ。
それに伴って今まで端的にしか話していなかった、僕や先輩、白鳥さん、心霊研究会のことについて詳しく話した。心霊研究会に入ることになった経緯や先輩の家庭事情、あの時の気持ちなどを事細かに語っていたら、かなりの時間が経っていた。僕の長い話の間も満月さんは相槌を打ちながら聴いてくれた。
「白鳥さんにも伝えていいですか?」
「いや、まだ秘密にしておこう」
「何故ですか?」
「その方が面白いから」
アルタイルへの道 夢水 四季 @shiki-yumemizu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アルタイルへの道の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます