アルタイルへの道

夢水 四季

よだかの星

私に星のことを教えてくれたのは「先輩」という不思議な人だった。

 彼の本名は知らない。

 ある日、祖母が拾ってきた青年だ。

 彼の過去も、今、何をしているのか、どこにいるのかも分からない。



 夏のある日のことだった。

 先輩は縁側に座って、星を見ていた。

 私は、彼の隣に腰かけて、二、三話をした。

 夜空には、夏の大三角、デネブ、アルタイル、ベガが輝いていた。

 先輩は皆がよく知っている七夕の話の後に、ギリシャ神話も語った。

彼は、どこか懐かしむような語り方だった。

 


 また、私は星を見ながら、童話を聞くのも好きであった。

 今、私が文学好きなのは、先輩の影響が大きいだろう。

 子どもの頃、好きな話は宮沢賢治の話だった。

「よだかの星」

 夜鷹という皆から醜いと言われた鳥が、自己犠牲の末に、星になる物語だ。

「君は、どう思うかね?」

 私は少し考えた。難しい問いだった。

 先輩は、私を少しも子ども扱いしなかった。

 私が頓珍漢なことを言っても否定しなかったし「それは面白い見解だな」などと言って、褒めてくれさえもしたのだ。



 私が高校に上がるくらいの頃、先輩は突然いなくなった。

 兄のような存在だった彼がいなくなった絶望は大きかった。

 祖母が慰めてくれたけれど、しばらくは立ち直れなかった。



 先輩が去ってから数年が経過した。

 私は東京の大学に進学し、一人暮らしをしている。

 先輩のお陰か文学が好きになり、大学でも学んでいる。


 あの時の問いには、幾分かマシな答えが返せるようにはなったはずだ。

 また星空を見上げながら、一緒に話したい。


 この空は繋がっているのだから、いつかまた会えると信じたい。


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