夜、街を往き、踏み潰し。
ろくまる
夜、街を往き、踏み潰し。
月だけの夜空。街はネオンの明かりでそこかしこが明るい場所が多いが、少し道を外れた薄暗い十字路に少女達はいた。
「この辺りはどうだ、見覚えは」
「……ないな。ボクの記憶にはない」
「そうか、なら次へ行くか」
褐色に黒い髪、服も背負うキーボードケースも真っ黒で大柄な男が淡々と口にする。少女は男の言葉に頷き、黒のジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
すると、少女の肩にほわりと光が浮かんだ。それはまるでおとぎ話の妖精のような、真っ白な幼い少女。
『レイ、ダメよ。手ヲ突っ込ンで歩イたら、危ないヨ』
「だって、手持ち無沙汰。マリが手でも繋いでくれんの?」
『オ兄様が、繋ゲばいいじゃなイ』
「……ダラが?」
「花嫁、嫌か」
「コラ。ボクまだ認めてないからソレ」
男、ダラを睨みながらレイは言う。彼女の紫の瞳に射抜かれるダラの赤い瞳は、無機質ながらも優しさを感じるのは長い時間共にしているからだろう。
レイが複雑な思いをしていると、不意にマリがビクリと固まった。
『3ジ、方向。敵機、微弱電波ヲ検知。
「……ダラ、
「心得た。──ロック瞬間解除、
背負っていたケースに手を当てダラが唱えると、ケースの中から鋭い機構がダラの指に付き、大きく鋭い獣の爪のような形になる。
そして人の姿をした「機械」がぞろぞろやって来た。機械達が視認する前にダラはソレに向かって爪や怪力を用いて殲滅していく。
──道路には、内臓に似た機械達のユニット部分がぐちゃぐちゃになって広がった。
「マリ、逃走ルートは」
『こノ先ヲ突破。オ兄さマがレイの露払イスレば、行けるワ』
「じゃそれで。ダラ、行くよ!」
そうレイが口にして駆け出す。
──ぐちゃぐちゃの地面を踏み潰して、記憶の無い少女とサイボーグとAIの三人は夜の街を往く。
追手から逃げて、記憶を取り戻すだけの旅は、続いて行く。
夜、街を往き、踏み潰し。 ろくまる @690_aqua
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