ソースコード

信仙夜祭

他人の書いたプログラム改修

「おーい……。これ書いた奴誰だ? 読めないぞ?」


 目の前には、酷く個性的なプログラムコードが並んでいた。ソースコードとも言う。

 最近は、ブロック化されたソフトも出て来たけど、古いプログラム改修を請け負うと、ぐちゃぐちゃのソースを読まないといけない場合がある。


「あ……。それ、数年前に辞めた奴です」


 ため息しか出ない。

 まあ、時間の無駄だ。目の前の問題に取り組もう。


「……。仕様書までぐちゃぐちゃだ。書いた本人にしか読めないじゃん」


 こんなモノを納品して、数年動かしていたのか……。

 動いていたんだよな?


 今度は、改修の要望書を読んでみる。


「……。作り直した方が、速くないか?」


 これは……、営業の連中が止めてた案件だな。

 どうやら、ハズレを引いたみたいだ。

 それと係長が、笑っていやがる。


 俺は、数年前の契約書を探した。


「これか? ソフト開発要望書の中身は……、とりあえずまともだな。契約した先は、まともな会社だったけど、うちの営業とプログラマーが、初心者だったんだな」


 幸いにも、そんなに大きくはない。それと、改修期間も長期間取られている。

 短期間納期だと、徹夜しないとけない。だけど、最近は就業規則も厳しい。


「10年前が懐かしいな」


 そんな、ぐちゃぐちゃのソースだった。





「改修終わり……。テスト終わり……。時間は、かなり余ったな」


 契約書を読んで、実際にソフトを動かせば、どんな処理をするのかは分かる。

 あとは、仕様書とソースを自分好みに書き直せばいい。


 営業と相談して、仮納品を行って貰う。

 顧客に動作確認して貰い、契約書と齟齬がないかを確認して貰うのだ。

 顧客にデバックをさせることになるけど、契約した期間よりだいぶ早いんだ。顧客側も喜んでいる。


 係長は、苦虫を噛み潰した顔だ。俺に恥をかいて欲しかったみたいだ。

 課長と部長は、知らんぷり。怒るのが、仕事の人たちだ。静かな分は、問題ない。

 評価もしてくれないのが、問題なんだけどね。

 独りで作業したい俺は、今の環境に不満を持っていない。まあ、何時転職しても構わないし。



「助かったよ。誰も引き受けてくれなくてね」


 営業が、礼を述べてくれた。


「……あれだけ、ぐちゃぐちゃだとね。ほとんど作り直しでしたね」


「書いた本人しか読めないのは、どうにかなんないのか?」


「部署のトップが、あれだとな~。他の会社だと、どうなんでしょうね……」


 営業がため息を吐いた。

 人の出入りが激しい会社だと、こんなことは常にある。

 そして、常に増え続けている。


「他人からすれば、ぐちゃぐちゃでも本人からすれば、読みやすく作ったんだろうな~」


 まあ、そんな俺の作った仕様書も、他人からみれば、ぐちゃぐちゃなんだろうけど。


「飲みに行かないか?」


「……軽く、食事でお願いします」

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ソースコード 信仙夜祭 @tomi1070

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