「キミをぐちゃぐちゃにしたい」‥KAC20233‥ぐちゃぐちゃ

神美

それは固定観念だ!

「ねぇ、キミをぐちゃぐちゃにしてもいい?」


 学校のとある教室の前を通りかかった時、室内からそんな会話が聞こえてきたから。

 思わず廊下の壁に背をつけ、中の様子に耳をすませてしまった。


「あっ、ちょっと……! ダメ、触んないで」


「だって……ぐちゃぐちゃにしたいんだもん、キミを――」


 な、なんだなんだ。この教室の中では一体何が繰り広げられているんだ。中にいるのは生徒二人だろうがこの会話内容は……?


「だって、そうしないと、デキないよ?」


 デキる? デキるって何が?

 さっきから疑問しか浮かんでこないが、会話を聞いていると興奮して息が詰まってきてしまう。


「まだ早いっ、もう、ちょっと待って」


「やだ、我慢できない」


 すごく悪いことをしている気がする。自分の心臓がバクバク、バクバクと早く動き続けている。すごい背徳感、けれど気になってしまう、淡くない期待。

 聞いちゃダメだ、失礼じゃないか。そう思うのに止められない。


「もう、いいでしょ。お願い、キミをぐちゃぐちゃにしたい」


「ダメだよっ、触んないで――あっ!」


 ゴクリ。生唾を飲み込んだ瞬間、教室の中から「あーっ!」という、わりと大きな声が聞こえ、思わず身体が飛び跳ねた。


 えっ、そ、そんなに、激しいことをしているの? 大丈夫? ここ、学校だよ?

 自分の頭の中までもが、ぐちゃぐちゃになりそうになっていると。


「もーっ! だからまだだって言ったのに!」


 その言葉に頭の中のハートが疑問符に変わった。


「だって混ぜないとデキないじゃないか!」


「違う! っていうか、だし巻き卵作るのになんでフライパンの上でぐちゃぐちゃにしちゃうんだ! これじゃスクランブルエッグじゃないか!」


「えーそうなの⁉ だって卵焼きって“キミ”と白身をぐちゃぐちゃに混ぜて“デキる”んだろ」


「だから! それはスクランブル!」


 ……あぁ、ここは家庭科室の前か。

 卵焼きの良い匂いに、なぜか落胆した。

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