第3話
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「盛大なため息なんかついてどうしたの、葉野さん」
どうしたって、それはこっちの台詞だよ……。
「なんで私の帰り道にあんたがいて一緒に帰らなきゃいけないの?」
「だって家がおんなじ方向なんだもーん」
「それにしても待っていたのはなんでだよ」
意識が十分前に戻る。
いつも通り、私は一人で家まで帰っていた。少しお腹が空いていたから、途中のコンビニで何か買おう思い、立ち寄ったところ、なぜか蒼井がいたのだ。
「な、なんでいるわけ……!?」
「おお〜、葉野さん!奇遇だねぇ」
いつものように輝いた笑顔で話がかけてくる。
「家が同じ方向なら一緒に帰ろうよ、友達だし!」
断る理由もない私は、彼と一緒に帰ることになってしまった。
そして、今に至るというわけだ。
「ちょっと!葉野さん聞いてる?」
視界にいきなり蒼井の顔が入ってきて思わず戦闘態勢に入りそうになった。
「ごめん、ちょっと考え事してた。なんの話だっけ」
「先生が帰りのHRで言ってたことだよ!」
「え、先生なんか言ってた?不審者の話しかしてないよね」
「そうそれ!怖いなーって思ってさ」
「まぁ確かにそうだね」
気まずい沈黙が流れる。目の前にある太陽がゆっくりと沈み、だんだんと夜の世界になっていく。
「あ、うちここだから」
そう言って門を開けて家の敷地内に入る。
いつもより早く帰りついたかなと思ったらいつも通りの時間だった。
「また明日ー!!」
家に入る直前、蒼井が大きな声で言った。
「……また明日」
まだ警戒しているが、少なくとも今日一日で、この蒼井というやつは悪いやつではないということがわかった。
だから振り返って声を返した。
私に背を向けていた蒼井がばっと振り返り、少し驚いたような表情を見せた。
そして私に手を振ると、もう夕陽が沈んでしまった方向に歩いて行った。
自分の部屋に入り、電気をつけて部屋のカーテンを閉めようとしたとき、人影が目に入った。
蒼井だった。
なぜか来た道を歩いて戻っている。
少女漫画だとか恋愛小説だとかはこういう場合、『危ないから家まで送ってくれた』という理由が挙げられる。
そのとき、先程の会話が頭に浮かんだ。
「先生が帰りのHRで言ってたことだよ!」
「え、先生なんか言ってた?不審者の話しかしてないよね」
「そうそれ!怖いなーって思ってさ」
「まぁ確かにそうだね」
不審者は学校の西側で目撃されたらしい。
まさか、私が危険な目に逢わないように送ってくれた?いやいや、帰っている途中で何かを落としてそれを探しているだけかもしれないし。
明日本人に直接聞いてみればいい話だ。
命 綴夏 @ciel_72
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