間違い探しはファンタジー

健野屋文乃(たけのやふみの)

【正】と【乱】

曾じいちゃんの古い置き時計がなり、猫が鳴いた。


キッチンに小春の姿が見えた。

多分、このパターンの恋人の小春だ。


他に恋人が夏樹パターンと千秋パターン、そして孤独な沈黙パターンがある。

何言ってるのか解らないかも知れないが、それぞれ世界線が違うのだ。

パラレルワールドだ。

わたしに流れる時間は、ランダムにパターンが変わってしまう。

時間の流れがぐちゃぐちゃなのだ。


だからと言って「世界線が違うんだ」等の言い訳は通じない。


「冬彦さあ、夏樹から連絡があった?」

小春は聞いてきた。


『連絡?』なんの連絡だろう?

この世界線は、記憶にある世界線とは違い、起こっていることも変わってくる。


「昨日、夏樹とお泊りして色々したんでしょう」

えっ、何か浮気を疑ってるのか?


「する訳ないじゃん」

わたしは無難に答えた。

小春はキッチンから小走りして

「えっ?夏樹となんかあったの?破局?」


あっ?この世界線は、夏樹パターンか。


ややこしいのは、どの世界線でも、わたしと小春と夏樹と千秋は、幼馴染で友達としても仲が良い事だ。

だから家のキッチンに居ても問題はないのだ。


このぐちゃぐちゃな時間の流れの中で、わたしはある結論に辿り着いた。

鍵は猫のりんちゃんだ!


猫のりんちゃんが油断した隙に、素早く掴まえた。

「この原因はりんちゃんだろ?」

りんちゃんの耳元で、囁いた。


「にゃ!」

りんちゃんは言葉を理解したように鳴いた。

言葉な雰囲気から『誤解にゃ!』かな。


とりあえず「またたび」とわたしが魔法の言葉を囁くと、


りんちゃんは、曾じいちゃんの古い置き時計を裏返した。

裏側には小さなスイッチがついてあり、【正】【乱】と書いてあった。


「これ?」

「にゃん」


わたしは【乱】から【正】に替えた。


「戻ったの?」

「にゃん」


こうしてわたしのぐちゃぐちゃな時間の流れは、正常に戻った。


マジか!

          

         完



でも【乱】の魅力を知ってしまった、わたしは・・



         

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間違い探しはファンタジー 健野屋文乃(たけのやふみの) @ituki-siso

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