第13話 姉弟の置き土産


 その後、改めて機能を停止した遺跡内を探索し、価値のある遺物を持てるだけ持ち出して軽装甲車輛タンク・バンに積み込んだ二人は、ベゾフの村へと戻った。


「トゥエル兄ちゃん! イリヤ姉ちゃん! ほんとにありがとう。俺、二人の事一生忘れないよ」

「私からもお礼を言わせてください。本当に感謝しているんです。もう二度と、ケントにも婚約者にも会えなくなる所でした。ありがとうございます」


 二人の家は荒らされてはいたものの、幸いな事に家具や農機具を破壊されたという訳では無かった。生きていくにはギリギリではあるものの、イリヤとトゥエルが居なければ、それすらもままならなかったのだ。

 

「そうだ。ケント、エレーナさん。これを」

「これは……? 銀貨ですか?」


 そして、別れを惜しみつつも依頼を終えたハンターを引き留める訳にはいかないと別れを告げたケントらに、トゥエルが一枚の銀貨を差し出した。


「お釣りですよ。今回は色々と実入りが多かったのと、元々あの遺跡は探索する予定だったのでね。嫁入りにもなにかと入用でしょう。気にせず受け取ってください」

「そんな……でも、お二人の厚意を無碍にするわけにもいきません。ありがたく受け取らせていただきます」

「本当に気にしなくて良いのよ? 今回は遺物だけで金貨5000枚くらいの稼ぎになりそうだもの。賞金首を足したら7000枚ね。だから全然気にしないで」

「すっげー! ハンターって稼げるんだなぁ……」

「ケント、姉さんだからこそだよ。ミュータントでもない一般人が遺跡なんて入ったら、守護者に見つかった瞬間即死だからね」

「う……うん。俺は堅実に暮らしてくよ」

「それがいい」


 姉弟ハンターの稼いだ金額に驚き、憧れの眼差しを向けたケントを諫める様に釘を刺すトゥエル。彼に何かあれば悲しむのは隣にいるエレーナなのだ。せっかく理不尽な不幸から救い出した二人には幸せになってほしいと、トゥエルは思っていた。


「でも……本当に良かった……。俺、姉ちゃんに何かあったらと思うと気が気じゃなくて……本当に無事で良かった」

「私こそ、あなたの事を鬱陶しいだなんて思ってた過去の私を殴ってやりたいわ。こんなに頼もしくてカッコいい弟なのに。ごめんねケント」

「いいんだ。ホントに昔はクソガキで姉ちゃんに甘えまくっててさ……そう思うのも当たり前だよ」

「甘えてもいいのよ? 昔みたいに……ね。いまならどんな貴方でも受け止めてあげられるわ。だってもう大人なんですもの」

「ちょっと恥ずかしいよ……二人もいるんだし。じゃあ今夜は一緒に寝て欲しいな」

「勿論いいわ」


 イリヤたちが遺跡に向かっていた間、二人はお互いの本音をさらけ出しあって話し合っていたのだ。

 もうエレーナにもケントにも、過去の負い目など存在していなかった。ただ、仲の良い姉弟となれたのである。


(血の繋がったたった二人の姉弟か……。ちょっと羨ましいな。姉さんに対する愛情は僕だって負けてないけど……やっぱりは眩しいや)


 自分と姉はどこまでいっても、ただそう決めて自覚しているだけでしかないのだ。そもそも人に似せて造られた存在でしかない己と、生命体がどうかも怪しい姉である。二人の間にある絆を疑った事は無いけれど、それでも目の前にある本物の絆を見てしまうと不安になってしまう。トゥエルはそう考えていた。


「うふふ。トゥエルもケントみたいに甘えてもいいのよ? ちょっと羨ましいと思ったんでしょ」

「なっ! 違っ……けどそうじゃなくて……うん、まぁ僕も後で甘えさせてね」

「ええ、存分に甘えさせてあげるわ。ベッドの中でね」

「ちょっと! 恥ずかしいからそういう事言わないでよ姉さん!」

「えー? だけじゃない」

「ちょっと意味深なアクセントつけないで! ほらもう行くよ! 宿場町で換金したり本格的な車の修理を手配したり沢山やる事があるんだから」

「はーい」


 どちらも仲の良い姉弟そのものといった様子は、トゥエルが悩んでいた様にはとても見えない。少なくとも第三者から見れば、どちらも同じくらい仲の良い姉弟なのは間違いないのだから。


 ※


 やがて、二人が去った後、平穏な日常に戻っていたケントとエレーナ。

 月日が流れ、エレーナが来週にも嫁ぎにいくというタイミングで、ケントは二人の本当の真心を知った。

 たまたま買い物に行った宿場町で、ギルドにも礼を言っておこうと酒場に顔を出したケント。マスターに礼を伝え、ならばミルクでも飲んでいけと言われたケントは、財布を開いて、ふとトゥエルに差し出された銀貨に気付く。


 只の銀貨だと思ってたのだが、よく見ると表裏の意匠がまるで見た事の無い物だった。これは星だろうか? 裏面は巨大な船に見えた。


「マスター。これって使えるの?」

「うん? ってこりゃあ…………坊主、お前これをどこで?」

「マスターも知ってるあの姉弟ハンターだよ。弟のトゥエル兄ちゃんが金貨のお釣りだってくれたんだ」

「くくく……あっはっはっ!! とんだお釣りもあったもんだ。相当気に入られたらしいな。少年」

「えっ? どういうことだい?」

「耳の穴かっぽじって聞けよ。これは、恒星間エーテライト旅客機の図柄のロスト・エイジ時代の貨幣だ。銀に見えるがそもそも銀じゃない。魔導科学の粋を凝らして作られた、貴重な魔導銀マナシルバー貨幣だ」

「えっ……えっ? マナシルバー……だって?」

「そうだな、今の価値にすると金貨100枚ってところだな」

「ええええええッ!! そんな大金怖くて持ち歩けないよ……」

「ならうちに預けるといい。本来はハンター以外からは手数料を取るんだが……渡した相手が相手だ。俺だってあいつらに嫌われたくは無いからな。無料で預かるぞ、引き出しの手数料もいらん」


 辺境で、一般人がそんな大金を持ち歩く事は自殺行為だ。だが、強力なハンターの後ろ盾があれば話は別だ。もし超級のハンターのお気に入りに手を出せば、待っているのは確実な死だろう。故にケントは安全であった。


 これなら姉ちゃんに嫁入りの衣装だって買ってあげられる。新居用の家財だって問題ない。それだけ使っても貯金にできるだろう。自分が結婚する時の為に貯めておこう。二人に再び感謝しつつ、ケントは足取りも軽く自宅へと帰るのだった。大好きな姉ちゃんに素敵な話を聞かせてあげる為に――。



 第一章 完



 ※


 あとがき

 

 なんかファンタジー世界が凄く文明進歩して最終的に滅びたら、凄く面白そうなポストアポカリプス遠未来SFファンタジーが出来そうだと思い、メチャクチャ濃いダブル主人公を出してしまった。作者はとても面白かったのだけど、受けるかどうか……現時点での評価だと微妙ですねぇ。それでも面白いと思ってくれた同士の方がもしいらっしゃれば、是非とも星を入れて頂けると幸いです。


 二人の物語はまだまだ続きますが、とりあえず第一章完結という形になります。

 またいつか、二人の冒険を届けられると良いなぁ……なんて思いつつ、今日の所は筆を置こうと思います。


 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。

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妖剣士イリヤ しんちゃん @sunnosuke1981

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