フラれる前に、フッてやる!

月猫

フラれる理由。

 浜辺に車を停めて、夕焼けを見ていた。

 車内は無言。

 気まずい空気が流れていて、重い。

 夕焼けに染まる海はあんなに綺麗なのに、綾斗はハンドルに顔を伏せていた。


 とうとう、お別れか……


 フラれることには慣れている。こんな空気感になったら、もうお終いだ。

 わかるんだ、私には。

 何回もフラれてきたからね。

 あぁ、今日でサヨナラだって、ビシビシと伝わってくる。


 しかし、今回ばかりはフラれる理由がわからない……


 うーん。

 あれか、裸にエプロン姿で、アワビのお刺身を出して「どっちのアワビを召し上がる?」ってアホなことをしたからかな???


 いやいや、あのとき綾斗は笑っていた。


 じゃあ、あれかな。

 手づくりおっぱいパンをお弁当に持たせたのが悪かったのかも……

 職場のみんなに見られて、すっごい恥ずかしかったって言ってたな。

 女性陣、引いてたって…… 

 リアルに作ってしまったもんなー おっぱいパン。


 でも、あの時も綾斗は笑っていた。


 ということは、あれか?

 海苔とチーズを使って私のヌード姿を描いたキャラ弁を持たせたのが悪かったのかな…… 

 セクシーに決めたポーズで描いたんだけどなぁ。

 でも、リアル過ぎて職場の人に見られたらまずいって、隠れて食べたって言ってたっけ。


 あー 考えてみたらフラれる理由があり過ぎたわー

 終わったな、私の7回目の恋。

 ラッキー7だと思ったのになぁ。


 こうなったら、フラれる前にフッてやる!


「あのさ、綾斗。私、好きな人ができたの」

「……えっ?」


 綾斗が、驚いて顔をあげる。

「……僕と、別れたいの?」


「ううん! じゃ、なかった。そう、別れたいの」

 顔がこわばる。

 泣きそうだ。

 泣くなよ、私!


「僕は……美那と結婚したかったのに」

 綾斗が呟く。


「——えっ?」

「今日、プロポーズしようと思ってて、すっげー緊張して…… やべっ、泣きたくなってきた」


 綾斗が悲しそうな顔をしている……

 嘘でしょ。嘘よ!

 私ってば、なんてことを――――


「わぁ~~~~ん!」

「えっ? なんで? なんで、美那がそんなに泣くの?」

 私の泣きっぷりに、綾斗が目を丸くしてオロオロしている。


「ごめんなさーい! 別れたくないの‼ 本当は、綾斗が大好き。 結婚したい!」

「えっ? だって、今……」

「あっ、綾斗、に、えぐっ、フラ、れるの、が、ヒック」

「俺にフラれる?」


「もう、アワビとか」

「アワビって、なんのこと?」


「パンが、おっぱいとか」

「パンがおっぱい???」


「裸で海苔とか、しないから。」

「落ち着いて美那。化粧が落ちて顔がぐちゃぐちゃだよ。頭の中も、言葉もぐちゃぐちゃになっているみたいだから、深呼吸しよう。そして、ゆっくり話して……」


「うん。わ、か、っ、たぁぁぁぁ~~~」


 こうして、ぐちゃぐちゃになってしまった綾斗のプロポーズ。

 でもね、綾斗は最後にこう言ってくれたんだ。


「美那といると、毎日が楽しいだろうなってそう思ったんだ。ずっと、ずっと一緒にいようね」

 


                『完』

 



 

  

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フラれる前に、フッてやる! 月猫 @tukitohositoneko

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