第17話次の封印の地へ

『これで、破壊神の封印することができる……エルシィ様……どこに行かれたのですか……』


 アクセスした巨人から流れてくるエクシアの心象風景。大きな結晶の前に立つエクシア。賢者と呼ばれたエルフ五人による破壊神の封印の儀式が行われようとしていた。


 各地に散らばったエルシィの側近が同時に術式を展開させることによって破壊神を次元の狭間に封印する。


 膨大な自然魔力を消費しつつ儀式術式は成功し破壊神が次元の狭間に飲み込まれようとしていた。――その時。


『なっ――エルシィ……様ッ!! なぜ? なぜあなたがそこに……破壊神の中にいらっしゃるのですかッ!! ――人間めぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇ!! 貴様らかっ!! 貴様らがエルシィ様を動力炉として破壊神に使用したのか!!』


 儀式術式は成功し止めることは叶わない。大きな結晶とエルフ五人の魂は繋がっており引きずり込まれていく。次元の狭間から藻掻きながら抜け出そうとする破壊神。その背後にはエクシアが慕い待ち焦がれたエルシィの影が苦しんでいた。


 その放たれる魔力反応からエルシィ本人だと察したのだろう。


 彼女達は待ち人であるエルシィに会えず、人類の為に身を捧げ破壊神を封印しようとしたらその動力炉に使用されていた事を知った時の絶望感と、人類に対する計り知れない増悪が溢れ出す。


『ヴォォォォオオォォォォォォオオォォッ!!』

  

 その嘆きがガーディアンの咆哮と共に魔導都市を焼き払う熱線が放たれる。


「慈愛。なんでわたしが破壊神の動力炉となっているの? ここは元の異世界ではなかった……ということ? エクシアの流れて来る記憶にはたしかにわたしが……」


『……推測にしかならないけれど、あの私は地球へ行く事ができなかった。もしくはアラメスに身体を乗っ取られずに力を付けることができなかった……言葉に出すのも嫌なのだけれど、創造神の残滓を取り込むことで私達の実力はかなり引き上げられた事は分かっているわね?』


「あー……世界樹から残滓を貰った時に身体の調子が良くはなっていたね。もしかしてあのエルシィの中には慈愛も闘神もいなかったり?」


『ええ、今の私達のように精神の分化も発生せずに中途半端なままで地球への異世界渡航を行おうとした……それで失敗でもしたんじゃないかしら? その肉体や精神が古代魔導文明には魅力的な動力炉として利用された。そんなところじゃないかしらね

――まぁ。私の組んだ術式は成功しているのだから“IFもしも”の世界の話をしてもキリがないわ』


「破壊神を封印したらエルシィでした……救われないなぁエクシア……わたしの知っている世界ではなかったし他人なのかもしれないけれど……」


『聖神教の生贄のシステムは人間を犠牲にして破壊神の封印を飽和させ解除しようとしている。私達エルシィにとってはむしろ協力してくれた事に感謝したいくらいね――ラーハン家の人間を生贄にしなければ、の話だけどね』


「盛大な自殺行為だなぁ……どうしたらいい?」


『あなたの好きにしなさい。異世界渡航できない原因もようやくわかったわ。エクシア……彼女の怨嗟の念と破壊神の本体を次元の狭間に封印している術式が絡み合いこの世界に歪な結界が出来ているだけ……時間は少しかかるけれど帰ってくることはできるわ』


「エクシアを救うよ。破壊神をどうするかは……彼女達に決めてもらう」


『わかったわ。――ハッキング開始。ガーディアンの制御を奪うまで時間が掛かるわ……暴れ始めるけれど振り落とされないようにしなさい』


 ガーディアンが両手で頭を抱えると苦しみ始める。頭部にいるえるしぃちゃんに気付くと振り落とそうと足掻き始めた。


「エクシア、少しは大人しくしていなさい」


 ――ゴォンッ!


 拳を握りしめると足元に拳骨を振り下ろした。見上げるような巨体が地面に膝を突き、頭部装甲にひびが入った。


 矮躯から繰り出されたとは思えないパワーはガーディアンを地に張り付ける。


『アドミンから預かっている宝石があるでしょう? それを使ってエクシアの魂を回収しなさい。それと、聖神教の連中が嗅ぎ付ける前にガーディアンの機体の回収お願いね』


 血のような涙を流しながら苦しんでいるエクシアへ魔導デバイスに付いている紫色の宝石を押し当てると術式が展開される。結晶が形作っているエクシアが粒子状に分解されていくと宝石の中へ吸い出されていった。


『――オノレッ――マタシテモワレワレヲ――リヨウスルツモリ……』


「ちょっと黙れ」


 えるしぃちゃんは頭部を少し引いたのち、頭突きをエクシアの額に叩きつけた。口を開けながら静まったようだ。気絶したとも言う。ガーディアンの身体もエクシアのように身体を痙攣させ停止する。


 エクシアの魂の回収も終わるとガーディアンの機体も異空庫へ回収する。慈愛は高度魔導文明のハイエンド仕様の機体の解析できることにワクワクしているようだ。







 何でも屋の爺さんが裏取引を行う為に設営していた都市付近の山中、その場所からは熱線が飛び交い崩壊していく魔導都市が見えていた。その様子をアガシオン兄妹もメルシーちゃんを震えながら見つめていた。


「おい、爺さん……。あれはなんなんだ? とても魔導ゴーレムの攻撃とは思えないぞ!?」


「あれは、聖神教の連中がガーディアンと呼んでおったが……。あの光の束は、熱線――ブラスターガンの一種じゃろう。今じゃ再現すらできぬが古代文明には熱量を収束させ発射させる機構が存在しておったのじゃが……破滅的な威力じゃのう」


「そんな呑気な事を言っていていいのかよ!? 魔導都市が滅びちまうぞ!?」


「ならどうするというんじゃ? あれを止める事ができる人間なんぞおるまいて……」


 ひとたびガーディアンが熱線を放てば建物が焼き切られ崩壊していく。あの破滅的な攻撃でどれほどの人間の命が消えていくのか想像できない。


「ん? ガーディアンの姿が消えたじゃと……?」


 熱線の攻撃も止み火災が発生している建物だけが見える。ガーディアンの動向を窺っていた聖神教の部隊もその事実を認識していた。すぐさまガーディアンの封印を行うよう部下から意見が上げられるもアズエラ司祭が意識不明の状態で指揮官不在の状態で動けない。


「一体何がおこっているんじゃ……儂の店も無事だといいんじゃが……」







「エルシィ様。魂の回収は終わられたので?」


 ガーディアンを異空庫に収納している所へルールンちゃんがやって来る。なるべく安全な位置に避難してもらっていたのだが無事だったようだ。


「うん……。エクシアっていう側近なんだけど……魂か無事かどうかは分からない……」


 腕に付けているバングルを撫でながら心配そうな表情をしている。


「そう……ですか。これからどうされますか? ――この魔導都市の惨状をみると早めに移動した方がよさそうですが……」


「そうだね。ポポル君や爺さんには悪いけれどすぐにでも移動しようかな? 聖神教の連中もうっとおしいしね」


 ガーディアンの消失を確認した魔導ゴーレムの部隊が急速に向かって来ているのを感知している。いちいち戦闘を行う事が今のえるしぃちゃんには煩わしく感じている。


 数万人もの人間達がガーディアンの暴走で亡くなっているのにも関わらず感情を動かさないえるしぃちゃん。それほどに自殺願望としか思えない聖神教を崇める人類たちに失望感を抱いていた。


「いこうか、ルールンちゃん。他の側近たちの封印も解除しないとね――――人類が滅びようとも破壊神には目覚めてもらわないとね!!」


 その邪悪な微笑みは【えるしぃちゃんねる】のリスナー達には見せられない程歪んでいた。魔導都市を去って行った二人は封印が施された地を探す為に再び彷徨う。


 それがどれほどの人間の生き死にが関わろうとも構わない。女神とは人類の為に身を粉にする高尚な存在ではなく。エゴの塊のような存在なのだから。







※ 第一部終了です。


プロットをあーだこーだと練りながらこの作品を書いていったのですが……ケレン味がまったく感じられず、前作のえるしぃちゃんのはっちゃけ感が失われてしまったような……。


コレじゃない感を抱きながら書いているのはとても苦しかったです……。


もう少し修行してきます……。


世も末

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