妖怪ぐちゃぐちゃ
カニカマもどき
例えば
例えば、カバンに入れたイヤホンが、絡まってぐちゃぐちゃになっていたり。
弁当箱の中身が、片側に寄ってぐちゃぐちゃになっていたり。
こういった経験は誰にでもあるでしょう。
気を付けているつもりでも、なかなか防ぐことは出来ず。
時には、何故こうもぐちゃぐちゃになるのか、皆目見当もつかないものです。
それもそのはず。
実はこの現象は、『妖怪ぐちゃぐちゃ』が引き起こしているのです。
そう。
玄関の靴がぐちゃぐちゃに移動し、誰の靴か分からなくなるのも。
ホチキスで綴じた書類が、プリンターに吸い込まれる途中で、ガッてなって、ぐちゃっとなるのも。
諸々全て、妖怪ぐちゃぐちゃの仕業なのです。
では、この妖怪をやっつければ、ぐちゃぐちゃは解消されるのか。
かつてそのように考えた、室町時代の武士が居ました。
彼の名は、
霊感が強く、かつ几帳面で綺麗好きな男。
直蔵はある日、弁当箱の裏に妖怪ぐちゃぐちゃがへばりついているのを見つけると、「
「妖怪め。もう二度と悪さが出来ぬよう、このまま捻り潰してくれる」
直蔵が右手に力を込めます。
が、しかし、妖怪は潰れず。それどころか、全然手ごたえを感じません。
「これはどうしたことだ」と、直蔵が目を凝らすと……
なんと! 彼の右手と、妖怪と、弁当箱との境界が曖昧に、ぐちゃぐちゃになり、次第に同化しつつあるではありませんか。
これには直蔵もたまりません。
「ひいいっ! お助けえ!」
と叫び、弁当箱を投げ捨てて、一目散に逃げだしました。
こうして、直蔵の妖怪退治は失敗に終わり。
幸い、同化しかけた右手は何事もなかったかのように元に戻ったのですが……
弁当箱には「波若羅多般蜜……」と、ぐちゃぐちゃな般若心境の痕跡が残ったのだそうです。
妖怪ぐちゃぐちゃは、以降も誰にも退治されることなく、今日もどこかで、何かをぐちゃぐちゃにしているのです。
妖怪ぐちゃぐちゃ カニカマもどき @wasabi014
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