【闇憑き姉妹シリーズⅢ】べとべとさん遊び

深川我無

べとべとさん遊び

「ねえ知ってる輪廻ちゃん?」


「なぁに?車輪カルマちゃん?」


「人氣のない深夜の町を歩いているとね…背後からひたひたと足音が憑いて来るの…」


「それでそれで?」


輪廻は濃紺の瞳をキラキラさせて続きを待った。


車輪は三日月みたいに目を細めた。赤銅色の瞳が妖しく光る。


「音に気付いて振り返っても、そこには誰もいないのね。薄ぼんやりと街灯に照らされた暗ぁい夜道が延々と伸びているだけ」


「気のせいかと思って歩き始めるとね…また例の足音が聞こえてくるの…」




「ちょうど今みたいにね」




ヒタリ…ヒタリ…


ペタリ…ペタリ…


べたり。べたり。


べとっ…べとっ…


やがて足音はぐちゃぐちゃに溶けた果実を落としたような水気を含んだものに変わった。



姉妹は顔を見合わせると手を取り合った。


嬉しそうにぴょんぴょん跳ねてにぃっと口角を吊り上げる。


「とっても怖いわ車輪ちゃん!」


「だけど平気よ輪廻ちゃん!」


「後ろのお化けはべとべとさん。ちゃーんと対処法を知ってるの」


「それでそれで?どうするの?」


「べとべとさん。先にお行き。そう言ってあげればいいの。そうすればべとべとさんは私達を追い越して行くのよ」


「それをしないとどうなるの?」


輪廻は怖怖聞いてみた。


「お家に憑いてきちゃうの」


「キャー」

「キャー」


二人は黄色い悲鳴をあげるとケタケタ大笑い。


「いいこと思いついちゃった」


「何何?教えて輪廻ちゃん?」


「コショコショコショ…」


「それは素敵ね輪廻ちゃん!」


「さっそくやろうよ!車輪ちゃん!」



双子は笑って振り向いた。とびきり綺麗で妖しい笑顔。


「べとべとさん。先にお行き」

「べとべとさん。先にお行き」


声を揃えてそう言うと、ヒタヒタ、ベタベタ、足音だけが、双子の隣を横切った。


「今だ!」

「今だ!」


二人は前行く足跡めがけて御札の貼られた麻縄を放り投げた。


「ぎぃやぁぁぁア亜あぁ亞ぁあ!!」


突然響いた断末魔。


見るとそこには崩れてズブズブ青白ゼリー。


二人は残念そうに顔を見合わせた。


「あーあ」

「あーあ」


「ぐちゃぐちゃさんになっちゃった」

「ぐちゃぐちゃさんになっちゃった」


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