満員電車で都合が良い!

維 黎

都合が良い話

「イタッ!!」


 思わず声が出てしまった。大混雑の車内でどうやら足を踏まれたみたい。

 列車がカーブを通るたびにギュウギュウと押されてしまう。抵抗なんてできやしない。

 春休み最後の遠出でせっかくおめかししたのに、お気にの服もセットした髪もぐちゃぐちゃだ。帰りだからいいけど行きだったら泣いてたかも。

 朝の通学でラッシュは慣れているけどほとんど同じ学生。けど夜の帰宅ラッシュは初めてで、まわりはサラリーマンのおじさんたち。なんていうか、その。息苦しい。


『――間もなく○○駅に到着いたします。左の扉が開きます。ご注意ください』


 車内アナウンスの後、1分ほどで駅に着くと電子音と共にドアが開く。と、同時に冷たい新鮮な空気が入って来る。私が下りる駅まであと3駅だったけどちょっと我慢の限界。なんとか降りようとしたけど、ドアまでもう少しというところで乗って来たお客さんに押し戻されてしまった。


「――ッ!」


 反対側のドアと他の乗客に挟まれてぺしゃんこにされる私。なんだか意識がぼ~っとしてきた。


(――誰か助けて)


 目をつむって心の中で助けを求める。

 本気で死ぬかもしれないと思った。


「??」


 そんなことを思っていると、フッと圧迫感が無くなった。なんだか空間が広がったというか。

 恐る恐る目を開けてみると――。


「――あ、都合とごうさん?」


 私を囲うように両手を広げてドアに手をついて踏ん張っていた。おかげで私は都合さんの腕の中で守られている――って、ちょっと恥ずかしい表現だけど事実だから仕方ない。


「あ、ありがとうございます――はい、友達と二人で――っあ、友達っていっても女の子ですよ!」


 弁明するのに思わず声が大きくなってしまった。いや、別に弁明しなくてもいいんだけれども。なんか誤解されるのも嫌だし。

 でもまさか助けを呼んでほんとに来てくれるとは思わなかった。


 ほんと、都合さんは都合が良い。



 

 ――続――











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