【KAC20233】―①『曲がった女達と真っ直ぐな男』
小田舵木
『曲がった女達と真っ直ぐな男』
絡まった糸。もしくは意図。
それが意味するのはぐちゃぐちゃになった私達の関係だろうな、と思う。
人が3人寄れば文殊の知恵、と昔の
本来はこう言うべきだ。
「3人集まれば3つの派閥が出来る」と。
◆
まったく。
ぐちゃぐちゃなのは私のこの
どうして人間は絡まりたがるのか?
私には理解が及ばない。
「面倒くさ…」と
そこには絡まりなんてありはしない。あるのは流線のみ。絡まるモノは何もない。
「
絡まった意図の中心である
「流れる雲に想いを馳せてた」と私が言えば。
「…お前はブンガク少女だなあ」と兎我野が眩しい笑顔で言う。そのキラキラした何かを私に向けるな。眩しすぎて死ぬ。
「人は誰もが詩人である」と私は目を伏せ、髪を指に絡めながら返事。こういう時は癖毛は便利だ。
「…誰の言葉?」
「…あのね。私は人の言葉を借りたりしないわよ、どこぞのヘボ文士みたいに」
「…引用
「オリジナリティの欠如」
「引用ってのはタイミングの芸術だ」と兎我野。
「タイミング考えず引用したがるアホが多すぎる」と適当にコメントを付す。面倒くさい。議論なんかしたくない。コイツとしたいのは―愛の睦言なのであって。でも素直になれない私が居て。
◆
癖が強い人間―そう言われて16年。
あたしは初めて恋というアレをしたのだ。自分でも驚き。
お陰で、幼稚園の頃からの仲良し3人組は引き裂かれた。
ま。いい
新緑の校庭をそぞろ歩く。昼飯求めに購買へ―なんて思ったら。
「お。
「
「そそそ。一緒にらんでゔーしようよ〜」とあたしはちゃっかり腕を掴み。ついでだから胸を当てておき。これで何点
「ちょ。お前近いっての」と兎我野ん。相変わらずの釣れなさっぷり。
「…こういうのを享受すれば良いのに。誰も見てないんだし」とあたしが目線に
「…こういうのは付き合ってから!!」
「別に付き合ってなくても胸くらいは良いんだぜ?」と
「据え
「案外、真面目っ子?」
「案外、じゃなくて―普通に真面目だ」
「釣れないなあ。あたしと同じ
「スジは通せってなもんよ」
「釣れない」
なんて会話が新緑の葉に乗って。会話は葉を揺らし、届かない隣の葉に触れ合って。
あたしは何時までも枝に留まる葉では無い事を彼に証明してみせる。
そして―その後は…兎我野んと色々やってしまいたい。
◆
夕闇迫る教室。茜色が空間を満たす。そこで独りで自習するのがウチの日課。
赤い赤い夕日。その色にウチは彼の頬を思い出し。
ウチ達仲良し3人組を引き裂いた元凶…ああ。どうしてああなってしまったのか?
そこに多分
「まなちゃん…ななちゃん…」と思わず口をついてしまう。
たった1人を取り合う私達。このゲームの勝者は1人しか居ない。人間の現行の
ああ。ウチたちがハーレムを作る生物だったらなあ、と思わないでもない。
そうしたら―3人で兎我野くんを楽しめたのにな。カッコいいトコとか言い合ったりしてさ。
…でも。そういう事も3人で共有出来るかな?と思わないでもない。
よっぽど兎我野くんに体力がない限り…相手してもらえる回数には確実に差が出る気がする。
ウチは…ななちゃんみたいにスタイル良くないし…まなちゃんみたいにフェロモンがある訳じゃない。びっくりするほどの幼児体型で。
「いやいやいや…そういう気持ちだけで兎我野くん好きな訳じゃないし!!」と口に出てしまう。
…うん。誰にも聞かれてないね。
そう、私は誰にだって優しくて真っ直ぐな兎我野くんに引かれているはずなのだけど。
こういう日は…どうしてもそっちに頭が行きがちだ。
そう言えば。男性は暇さえあればそういう事考えるって何かの雑学で聞いたけど…本当なのかな?そこに私が出演したり―してないよねえ。
「はあああ」とため息。課題片付けるつもりだったのに全く進んでない。
「おっす。
「ととと、兎我野くん!!」ウチは急な彼の来訪に飛び上がる
「そんなにビビらんでも…」と苦笑いする兎我野くんが可愛い…
「集中してたから」大嘘である。ウチは素直にモノが言えないつむじ曲がりでもあったりする。
「お。集中は善きことかな」と言う彼の自然な笑顔。そのえくぼ。堪らないなあ。
「そういう兎我野くんは何しにきたのよ」うん。冷たい感じになっちゃった。
「課題用のノートがな…コレないと進まん」と机から取り出したばかりのノートをウチに示す彼。ああ、手のごつい感じも良いなあ。あの手で…
「そ。用が済んだら出ていきなさいよ」リアクション待ち。しゅんとして欲しい。好きだから。そしてそのしゅんとした顔を…
「ん。早く帰るかね」と期待はずれにすっと去っていく兎我野くん。
彼に茜色が注ぎ込んで。その様は燃え上がるかのようで。
そこに―
ウチは変態で。だからアンチな存在の真っ直ぐな彼に憧れて。
燃え上がれ。ウチの恋心。それが仲良し3人の仲を焼こうが―ウチは手にいれたいのだ。彼を。
◆
…3人の女性に恋心を寄せられる男子高校生。
これはなんかの創りモノか?と問われれば。
ノーである。いやあ。困った。
何故困る?
いんや、1つ重大な問題がある。
俺のセクシャリティの問題である。
…俺は男が好きなのだ。
元々中性的な顔立ちではあった。昔は女の子に間違われたりもした。
まあ?第2次性徴ってのは残酷でよ?しっかり喉仏とひげと下の毛ついて来たけどな。
…それでも
それが高じてか―ウィッグを買っちまった。先週に。
腰までのロングのワンレングス。アレンジが効きやすい物を選び。
コイツが来るまでに脚と腕のムダ毛は処理した…そして下着だって通販で用意した。化粧の道具だって揃えた。スキンケアはいつもしている。服も買ってある。
そう。
後はやってしまうだけなのだ。
そして―彼に心の内を告げたい…しかし、それは男としてなのか?はたまた女としてなのか?
分からない。
◆
絡まって。ぐちゃぐちゃになった意図。
それが
「あ」三人分の声が重なるは商業施設のフードコート。
私は買い物に疲れたから休憩に来たんだけどな。
「なんだあ?色気づいたか?
「ここで喧嘩することなくない?」と
「…茶でもしばく?久しぶりに」と私が提案すれば。
「敵に情報渡すかよ」と七曲。
「そー言わない。ななちゃん」と曲本が制し。
我々は微妙なティータイム。
私はブラックコーヒー。
七曲はコテコテにカスタマイズされた何か。
曲本はココア…子どもみたいだな。
そこに―現れたるは妙に
「おい。アレ…」
「…兎我野くんに似すぎ」
「…妹じゃないの?」そう、私は彼に妹がいることを知っている。
「…兎我野くんの手の形と一致してる」と彼女を
「うわ、曲本きっしょ…でもお前が言うならそうかも知れん」と呆れつつ言う七曲。
「と。言うことは?」
「我々は―恋破れたってことかな?」と私は思わず言い。
「アイツ。あたしが胸当てても反応しなかったのそういう事かよ」
「…七曲ズルい」と拗ねる曲本。
「アンタは―
「まあ、癖が強くはあった…が。アレかよ畜生…」
「言わんとせんことは分かる」
「…さて?」
「…戦争は終了か?」
「アレじゃあ、ね。いや…アレもアリかなウチ的には。レズにしちゃえば―」
「曲本怖いって」と私は言い。
「絡まった意図…ぐちゃぐちゃの意図。その先がアレかよお」と七曲はまだ惜しそうだ。
「ま、
私の髪は何時も絡まってるが…
人と人の縁くらいは真っ直ぐにしたい。
それがどれだけ愛おしいものであるか分かっているから。
これでぐちゃぐちゃだった私達のお話はお終い。
◆
【KAC20233】―①『曲がった女達と真っ直ぐな男』 小田舵木 @odakajiki
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