人生ぐちゃぐちゃでいいじゃない KAC20233

朝風涼

ぐちゃぐちゃでいいじゃないか

 高校一年の春、三月の事。

 夕日が赤い教室で、同じクラスの秋桜さんに告白した。


「あの、すみません。二年生になったらクラス替えがあるので、もう会えないと思うんです。それで、その、つきあってもらえませんか」


「ごめんなさい。ちょっとその気になれなくて」


 予想通りの討ち死にだった。

 当たって、砕けて、僕の心は、ぐちゃぐちゃになった。

 もういやだ、その時はそう思った。


 高校二年の春、五月の事。

 階段横の踊り場で、秋桜さんにリベンジマッチを行った。

「あの、呼び出してすみません。せめて交換日記はどうですか」


 そして、予想外の出来事が起きた。

「いいですよ。日記くらいならしましょうか」

 人間、あきらめないのも大事だよな。

 当たって砕け散ったって、リベンジすればいいじゃない。

 そう思った。


 僕の心は有頂天。

 スタートダッシュは最高だった。

 秋桜さんの書く字は、いつも丁寧で美しく、交換日記は順調だった。

 でも僕の字は、ぐちゃぐちゃで、ため息が続く僕だった。


 高校二年の夏、七月の事。

 同じクラスの山中君と、初めて一緒に帰った。


「あのさ、話しておきたいことがあるんだけど。いいかな」

「いいけど何さ」

「秋桜はさ、中学ん時、俺とつきあってたんだよね」

「え?! だから何さ!」


 家に帰ってから、ベッドに寝ころび考えた。

 山中は、何を言いたかったんだ。ただの優越感か。ばかやろう。今がよければいいじゃんか。彼女に失礼だ。

 なんとなく、むしゃくしゃしてきて、心をぐちゃぐちゃにされた気がした。



 月日は過ぎ、結婚をして子どもが生まれた。


 子どもは、とってもかわいかった。だけど、食事だけは大変だった。


 子どもってやつは、なんでも興味津々なものなのだ。


 初めて子どもと一緒に、お蕎麦屋さんに入った時の事。

 器に小分けしたそばも、唐辛子も、ひっちゃかめっちゃかになり、テーブルの上はぐちゃぐちゃになった。


「いいですよ。子どもってそういうものなんですから。気にしないでください」

 お店の人にそう言われて、心から感謝した。



 最近の事、心がぐちゃぐちゃになることは、かなり減った。


 蕎麦屋の事件を思い出してみると、人間って、もともと自由に生きてるものなんじゃないかと思う。


 人生ぐちゃぐちゃでもいいじゃないか。一度限りの人生だもの。


 自分のペースで、自由に生きていきたいものだと、いまこそ思う自分だった。

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人生ぐちゃぐちゃでいいじゃない KAC20233 朝風涼 @suzukaze3

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